研究課題/領域番号 |
26370857
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
服部 良久 京都大学, 文学研究科, 教授 (80122365)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルプス / グラウビュンデン / サヴォア / ティロル / コミュニティ / 渓谷共同体 / 国家 / 同盟 |
研究実績の概要 |
8月末から9月初にかけてスイスを訪れ,アルプス史研究の第一人者、ルツェルン大学のヨン・マチュー教授と意見交換し、プロジェクトについて助言を得た。スイスではグラウビュンデン州のクール市の国立文書館で調査を行い、またスイス=イタリア大学(在メンドリジオ)のアルプス研究室を訪ね、所長のロレンツェッティ氏と意見交換、27年度末の同研究室主催の研究集会で報告することを約束した。イタリアではミラノの研究協力者マッシモ・デッラ・ミセリコルディア氏と、やはり27年末に神戸でアルプス地域史の研究集会を行うことについて協議した。 26年度は「研究実施計画」に記したとおり、グラウビュンデンの文書集の他、ティチーノ州(渓谷)の文書集、峠の両側、フランス・イタリアに跨がるサヴォア(サヴォイア)地方の文献、史料集の蒐集を行った。これらに基づき、トレントのイタリア・ドイツ史研究所から刊行される論文集「アルプスにおける共同体と紛争」に掲載される英文原稿 Community, Communication, and Political integration in the Late Medieval Alpine Regions: A Survey from a Comparative Viewpoint を作成し、26年末に同研究所に提出した。この論集は27年の秋には刊行予定である。こうした調査、研究、論文(原稿)作成より、アルプス諸地域の渓谷におけるコミュニティのありかた、相互の連携・連合と支配権力の関係について、①グラウビュンデンの共同体・同盟的タイプ、②ティロルの共同体・国家相互依存型、③西アルプスの君主権力主導型、④ロンバルディア北部の境界地域における自律的共同体連合の四つの地域モデルを設定し、27年度にさらなる実証的な比較研究を行うための準備作業とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スイス、イタリアの若手、中堅のアルプス史研究者との交流を行い、研究課題について意見交換し、本課題が有益なものであることを確認できた。またアルプスの東西南北に及ぶ地域における共同体相互間の連携・連合・同盟と、国家的権力の相互関係をマクロに比較し、中世における各地域の政治的環境と地理的、経済的条件の特質、共同体間コミュニケーション(紛争、交渉、同盟、連合)について、四地域モデルに区分して、アルプス諸地域の特質をマクロに把握する事が出来た。これにより、比較考察のための枠組みが出来た。またトレントのイタリア・ドイツ史研究所の論文集に、こうした地域モデルに関する論文を寄稿することが出来た(27年秋刊行予定)。この間、スイス、イタリアのアルプス史関連研究所で各地域の基本的な刊行・未刊行の史料や文献を調査、可能な限り購入し、今後の研究の準備態勢を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
スイスのグラウビュンデン州(カントン)について、引き続き文書館調査を行う。くわえて同州のエンガディン渓谷において、集落景観、地形と資源分布・資源利用などについて現地調査を行う。ロンバルディア北部の渓谷と共同体に関する史料を蒐集し、独特の共同体・同盟的(連邦的)政治組織への統合を実現したグラウビュンデンと、スイス、イタリア(ミラノのヴィスコンティ家)の境界地域にあって、両権力からの相対的な自立性を維持したValtellina ,Ossola, Ticinoなどの渓谷における共同体間の紛争、コミュニケーション、同盟と連合の実態を明らかにする。また西アルプス、サヴォアの君主、在地領主、共同体の関係についても文献と刊行史料による研究を進める。こうした各地域の比較研究のポイントとして、共同体のエリート、政治指導者たちの実像と渓谷内外に及ぶ活動と役割に着目する。可能ならValtellina渓谷の現地調査を行う。 なお8月には日本で行っている「アルプス史研究会」のメンバーとともに、来日予定のルツェルン大学のヨン・マチュー教授を中心にワークショップを京都で開催する。 12月には、甲南大学の佐藤公美准教授と協力して、ミラノ・ビコッカ大学のアルプス史研究者、マッシモ・デッラ・ミセリコルディア教授をゲストとし、研究集会を甲南大学で開催する。
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