研究課題/領域番号 |
26370859
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
前野 弘志 広島大学, 文学研究科, 准教授 (90253038)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 魔術 / 呪詛板 / 古代宗教 / 碑文学 |
研究実績の概要 |
今年度は、呪詛板作成のマニュアルであるギリシア語魔術パピルスの分析を行った。呪詛板には呪文や神々の名前が多数書かれているが、呪詛板は魔術の道具であり、いわば魔術の残滓にすぎず、呪詛板それ自体が魔術の説明をすることはない。従って呪詛板だけを分析したとしても、魔術の「理論」は分からない。魔術の「理論」とは、魔術師および当時の人々が、なぜ魔術は効くと考えていたのか、その「理論」のことである。具体的には、現存するギリシア語魔術パピルスの総数、時代分布、内容分類、分類ごとの概要、魔術の「理論」、文書全体から見える当時のエジプト社会の時代性について検討した。経過報告として、2014年6月8日に広島大学で開催された中国四国歴史学地理学協会大会西洋史部会において「『ギリシア語魔術パピルス』を読む」と題して報告し、それに加筆・修正したものを『西洋史学報』42号に「『ギリシア語魔術パピルス』を読む」と題した論文として掲載することが決定されている。本来は2014年度中に発行される予定であったが、予定が遅れてまだ発行されていないが、5月末には発行される予定である。
魔術の「理論」とは、神々の本当の名前を突き止め、それを唱えると、自分の本当の名前を唱えられた神々は、それを唱えた者の言うことを聞かなければならないという「掟」のようなものにあることが、実証的に明らかになった。このことは、名前と実体の関係を特別視する古代エジプト人の思想に根ざしたものであり、日本の言霊信仰に似ているのかも知れない。この成果によって、なぜ呪詛板に呪文や神々の名前の意味がしきりに書かれるのか、その理由が明らかとなった。このことは、呪詛板の精査だけでは得られなかっただろう。
また大量に呪詛板が出土したバースに行き、呪詛板および聖域を実見した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度の目標は、呪詛板資料の収集であったが、それを行いつつ、遠回りにはなったが、ギリシア語魔術パピルスの分析を行ったことにより、大きな成果が得られた。なぜならば、研究を始めてから気づいたことであるが、27年度の目標である「エフェシア・グラマタ」の分析、28年度の目標である「記号の分析」にとって、魔術の「理論」を明らかにすることは不可欠だからである。魔術の「理論」の分析ができたことによって、エフェシア・グラマタの意味、および記号の意味が、次第に明らかになってきた。27年度および28年度の課題が先取されて進められた感がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続いて呪詛板史料の収集を行いつつ、ギリシア語魔術パピルスの分析を進め、そのことによって27年度の目標である「エフェイア・グラマタの分析」、28年度の目標である「記号の分析」を進めていく。またレバノン考古総局とも連絡が取れたので、現地での状況が許すならば、レバノンでの調査および成果発表を計画している。その中でも取り分け、2010年にティールで発見された呪詛板に関する英語論文を、レバノンの学術雑誌BAALに掲載することを目指す。原稿はすでにできているが、様々な権利関係やレバノンの国内事情などによって投稿が遅れてしまった。その間の成果を加筆して、夏までには投稿しなければならない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、今回の課題研究が始まる前の成果を、26年度中に報告書にまとめることを計画していたので、その印刷費を200,000円計上していたが、やはり課題研究が始まったばかりの年に成果報告書を出すのは不適切だと判断したので、その分の予算が余ってしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、27年度の図書費および旅費等で十分に消化できる額であるので、そのようにして活用する計画である。
|