研究課題
本研究の目的は,2010年にレバノン南部の都市ティール郊外の地下墓から発見された呪詛板の解読をきっかけに,古代地中海世界に広く見られた呪詛文化の全体像を描き,個々の呪詛板に垣間見られる庶民の生活や人間関係,感情など,立派な石の記念碑や歴史書からでは分からない,下からの歴史の構築を目指したものである。史料を収集するうちに,呪詛板からではどうしてもわからない魔術の「理論」を知る必要を痛感し,一年目には「魔術パピルス」の分析を行い,その成果は「『ギリシア語魔術パピルス』を読む」『西洋史学報』42号(2015年3月)にまとめた。また一大呪詛板発見地であるバースを訪れ,呪詛板と発見地を実見した。二年目には,個別の呪詛板研究として,上記の地下墓発掘呪詛板の解読及び解釈をレバノンの学術雑誌Baalに投稿した。同論文は2017年発行のVol.17に掲載決定している。これは日本人研究者による初めての初出史料の研究である。またレバノン考古総局と日本大使館を訪れ,今後の発掘計画について説明し,こちらの準備が整い次第で発掘開始できる約束を取り付けた。最終年度には,一大ジャンルである戦車競争に関する呪詛をとりあげ,大戦車競争場キルクス・マクシムスにまつわる呪詛を調査した。キルクス・マクシムスがその建設当初より豊穣呪術の場として,ローマ国家建設の中心地として機能していたことを突き止めた。これは比較宗教学的アプローチによる成果であり,これまで考古学や文献史学において手詰まりになっていた王政期ローマ史に対する新しいアプローチを示すことが出来たのではないかと考えているが,今年の3月に現地を実見した成果がまだ十分に消化できていないので,論文はまだ完成していない。また本研究期間中に分析ソフトRを使用した呪文分析,移動する魔術師たちの研究を開始したので,本研究の成果はこれからも引き続いて発表される。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Bulltin d'Archeologie et d'Architecture Libanaises, Ministere de la Culture Direction Generale des Antiquites
巻: 17 ページ: 印刷中