研究課題/領域番号 |
26370860
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松井 康浩 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (70219377)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 異論派 / 知識人 / モラリティ / 1968年 / 人権 |
研究実績の概要 |
本研究は、1968年に最初のピークを迎えたソ連の異論派知識人による人権擁護活動と彼らの国際社会にむけたアピール(「世界の公衆へ」)を主要な題材に取り上げ、①異論派がいかなる道徳的立場に依拠して自身の行動を正当化したのか、②異論派の活動をサポートした西側の特派員や知識人が、いかなる倫理的、道義的判断からそれを行ったのか、③両者の総合関係と互いの評価はどうだったのか、以上の3点の解明を目的としている。 平成27年度は、西側知識人サイドに重点を置いて調査を進めた。北海道大学図書館、国会図書館、京都大学図書館などが所蔵する資料調査を行うとともに、特に、アムステルダムの国際社会史研究所が所蔵するゲルツェン財団のアーカイヴ資料を閲読した。ゲルツェン財団は、異論派の著作物(いわゆるサミズダート)をロシア語で発刊するとともに、それを英語などで翻訳刊行する他の出版社に版権を委譲することで資金を得て、異論派を経済的にも支援するプロジェクトを実施した。その設立の中心人物であったカレル・レーヴは、1967年-68年にモスクワに特派員として滞在し、異論派と深い結びつきを持った人物であった。今回の資料調査により、上に記した財団の出版活動の目的を把握することができたのが大きな成果であった。 また、平成28年3月28日~4月1日の期間にニューヨーク出張を行い、68年の異論派活動の中心人物であったパーヴェル・リトヴィノフ氏に対して2日間にわたりインタビューを実施した。彼が異論派の活動に関わった動機、西側知識人とのかかわりなど、幅広い側面につき各種の知見を得られた。特に、異論派の運動をささえる道徳的基盤の手掛かりとしての政府の行動に対する「恥」「責任」の観念があったこと、西側支援者の支援の背景の一つに、「旧共産主義者」としてそのイデオロギーの下で苦境にある異論派を支援する動機があったことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異論派やそれを支援した西側知識人のプロジェクトにかかわる資料収集も進み、かつ異論派の中心人物であったパーヴェル・リトヴィノフ氏へのインタビューを彼に直接会って実施し、貴重な情報が得られたから。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究プロジェクトの最終年度にあたるため、一定の具体的な成果を上げる必要がある。この2年間の作業により、この研究プロジェクトを一書にまとめあげる構想が浮かんできたため、その構想を具体化するための作業を行いたい。徐々に浮かび上がっている本書の構成、その各章の内容を固めるとともに、執筆に必要なデータをさらに整備していく作業である。 そのためには、アムステルダムの国際社会史研究所が所蔵するゲルツェン財団のアーカイヴ資料のさらなる調査が必要になる。また、イギリス人詩人スペンダーが行ったプロジェクト(Writers and Scholars Internationalの組織化と雑誌Index on Censorshipの発刊)に関する調査がまだ不十分なため、スペンダー・アーカイヴの調査のためロンドン出張を実施することも計画している。 以上の作業を経たうえで、計画している書物の一部分を論文にまとめる作業を行いたい。
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