29年度にはドイツのテュービンゲンにあるドナウ・シュヴァーベン人歴史・地域研究所とハンガリーのブダペシュトにある国立文書館と国立図書館において資料調査を行った。テュービンゲンではドイツ人追放民の、ブダペシュトではセーケイ人難民関係の史料を閲覧、収集した。 これらの調査によって、本研究テーマに関して不足していた史料を収集することができた。前年度に発表した内容を論文「第二次世界大戦期ハンガリーにおけるドイツ系住民強制移住と地域社会」にまとめることができ、チェコスロヴァキアとハンガリー間の住民交換とドイツ系住民の強制移住との関連性を明らかにすることができた。 最終年度の成果として、セーケイ人難民に関する論文は執筆中であるものの、本研究の目的であるドイツ系住民の追放、セーケイ難民の移住、チェコスロヴァキアとハンガリー間の住民交換の3つの強制移住が連鎖した原因として土地改革があり、ハンガリー人とみなされたセーケイ人難民とチェコスロヴァキアから追放されたハンガリー系住民への土地の分配がドイツ系住民の追放を促進・強化したことが解明された。また戦後の社会再編において各集団の移住先で新たなマイノリティ集団が形成されたことも跡付けることができた。地域の記憶のあり方については、1990年代に強制移住の記憶の掘り起こしが開始され、2000年代までに多くの聞き取り調査の報告や手記、論文集が刊行された。しかし、3つの強制移住の共通性や被害の共感について意識化されているとは言えない。
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