研究課題/領域番号 |
26370864
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
川分 圭子 京都府立大学, 文学部, 教授 (20259419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イギリス近代史 / 奴隷制廃止 / イギリス議会史 / イギリス領西インド / 家族史 / 家系史 / 国際情報交換(イギリス) |
研究実績の概要 |
まず、図書『イギリス近代史における議会制統治モデルの幻想』では第9章「減税か賠償か―イギリス議会と奴隷制廃止をめぐる議論 1823-33年」において、奴隷所有者への賠償金支払いを議会が決定する過程を、議会資料(国内大学図書館、インターネットで閲覧)と西インド委員会議事録(ロンドン大学所蔵)を用いて、調査した。時代背景として深刻な不況があり、西インド利害関係者側は砂糖税の減税を求めていたが、イギリス政府は決して減税に応じなかった。1823年以降将来的奴隷制廃止が議決され、政府はその準備として奴隷待遇改善を、不況対策との引き替え条件として奴隷所有者に強要したからである。奴隷所有者はこの条件に抵抗したため、結局、不況対策はなされないまま奴隷制廃止が最終的に決定した。だが、奴隷制廃止を実施するためには、西インドの砂糖生産者にこのショックに耐えうる経済力が必要だった。そのため、法案成立間際になって、議会外での閣僚と西インド委員会の交渉により、寛大な賠償金の給付が法に盛り込まれた。本稿では、以上の特に議会外での交渉の実情を、明らかにした。 論文「研究動向:イギリス家族史・個人史の伝統と現在―アマチュアと営利企業の進出する歴史学―」では、奴隷制廃止・賠償問題を離れて、しかし、所有者個々人の追跡調査の手段として、イギリス家族史研究の手法と現在の水準について明らかにした。ここでは、遺書、教区簿、身分改め、商工人名録、大学等卒業者名簿、市民登録証、投票記録など個人名が残る原史料にどのようなものがあるか、19世紀にこれらの史料を使ってどのような研究成果や事典類が作成されたか、それらが現在史料館、出版社によってどのように保管、公開、刊行されているか、さらにはここ数年で急速に発達した民間営利企業による有料アマチュア向けインターネット・サイトにおいて何がどこまで公開されているかを調査し、解説した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の3つの柱のうち1つ目、西インド不況問題と不況対策としての砂糖税減税問題、については、政府がなぜ砂糖税減税を決して行わず、その一方で賠償制度を設置した理由がすでに解明できた。ただし、これは当初の仮説である財政上の高度な判断というよりは、すでに議会で議決された奴隷制廃止を是が非でも実施しなければならない政治的必要上起こったことであるという結論になった。また研究目的3つの柱のうち3つ目の賠償受給者の人物像と賠償金の行方については、調査方法についての整理を終了した。26年度については、研究目的の1つ目または3つ目について論文を発表するという計画になっており、ほぼ達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の調査により、バルバドスには基本的に独立以降の史料が保管されており、商人・プランターの私的文書も19世紀末以降が中心であり、当面すぐに活用できるものは少ないことがわかった。このため、西インドでの再調査は本年度は行わないこととし、今年度はロンドンでの調査を中心とする。平成27年度は、当初の計画ではイギリス議会資料の調査を行うとなっているが、それはもうほとんど必要がないので、賠償受給者の人物像についての研究を進捗させる。結局賠償受給者の主だったものは、ロンドンを基盤とした貿易商・銀行であったため、ロンドン首都文書館にあるロンドン商人関係の史料の調査に主眼を置く。
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