研究課題/領域番号 |
26370864
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
川分 圭子 京都府立大学, 文学部, 教授 (20259419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イギリス近代史 / 西インド / アンティグア / 砂糖生産 / 砂糖貿易 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、学科主任業務多忙のため、研究実施計画内容の半分強ぐらいの作業をするにとどまり、予算も繰越し、その分平成28年度に研究分担者を一名追加し、平成27年度に果たし得なかった研究を行うことになっている。 平成27年度は、8月30日より9月8日にロンドンに在外研究を行い、そこで主に植民省と財務省の文書を調査した。その結果を論文「奴隷解放・自由貿易期における英領西インドの砂糖生産とロンドン貿易商」(『国際商業史論集(仮題)』吉田書店、2016-17年、出版予定)にまとめた。これは、主に1850年代以降、多重債務状態に陥っていた西インド砂糖プランテーションが奴隷賠償金の受給に加え法的手続きの簡便化により債務から脱して、1860年代には一時的に好況を迎えるが、その後自由貿易の加速化や、自由貿易の名の下での他地域からの砂糖のダンピング輸出により苦境に陥り、そのまま帝国主義時代を迎えるまでをまとめたものである。奴隷賠償金の直接の行方よりもずっと後の時代までを扱う形となったが、後代まで扱うことで奴隷賠償金の効果・意味についてより明らかになった。27年度内に予定していた西インド現地調査は行えなかったが、そのかわり先の論文によって奴隷賠償金が多重債務プランテーションの整理に使われた後、新たな技術の導入が可能になり、大規模な中央製糖所が作られていくことが明らかになったので、28年度の現地調査においては、この中央製糖所の実地検分、中央製糖所設立期の史料の現地での保存状況の調査を行うという目標を設定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の3つの柱のうち一つ目、西インド不況問題としての砂糖税減税問題については、すでに26年度に終えることができた。(『イギリス近世・近代史と議会制統治』吉田書店、として本年度11月に刊行された。)研究目的の3つめの柱、賠償金受給者の人物像と賠償金の行方については、論文「奴隷解放・自由貿易期における英領西インドの砂糖生産とロンドン貿易商」で、数名の受給者のケーススタディとして、彼らがどのように賠償金を使ったかについて明らかにすることが出来た。この3つめの柱については、受給者を帝国主義時代、20世紀初頭までたどり続けることで、西インドの全体史、脱植民地化などより大きな歴史的問題にひろがっていく課題であることが、現在明らかになってきている。今後は、この柱を中心に、研究を発展させていくつもりである。研究目的の2つめの柱は、賠償のためにイギリス政府が行った借り入れの返済の課程であり、これについてはまだ着手できていない。しかし、これはそもそも本科研では問題調査の方法や資料的可能性を探査することが目的で、具体的に返済課程を明らかにするまでは目的としていないため、28年度のイギリスでの調査で予定の範囲では調査が進むと予測される。本年は主任業務多忙のため,西インドでの実地調査が遅延したが、それも来年度研究分担者を一人設置することで、対処されている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、ロンドンにおいて、自由貿易時代後半から帝国主義時代にかけての植民省、財務省、商務省などの史料を探査し、西インド・プランテーション経営を持続した賠償金受給者の子孫がどのように砂糖生産活動を持続したか、それを政府がどのようにサポート、あるいは支援から撤退しようとしたかを探る。また、この一方で政府が賠償金の借り入れの返済をどのように行っていたか、またこの財政的負担をどのように理解し、その理解が西インド問題全体にどのような影響を及ぼしていたかを、政府文書の中で探査する。 西インド現地調査に関しては、世界諸英語研究者を研究分担者として追加し、調査に同行してもらうこととした。分担者は現代の言語状況を通して認識される歴史的問題について、研究代表者に情報を提供する。代表者は、平成26,27年度に引き続き、カリブ地域で保管されている植民地時代の史料の調査を主として行い、あわせて現地に残るプランテーション,製糖所、プランター家屋などの歴史的事物の探訪も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は学科主任となったため、業務多忙で、当初予定していた西インドに研究出張することが可能なだけの校務空白の期間を確保することが出来なかった。そのため,ほぼその旅費に相当する金額が次年度繰越となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本科研最終年度である平成28年度の研究を効率よく進めていくため、新たに研究分担者を一人設置した。この分担者には、代表者の西インドへの研究出張に同行してもらう。そのための費用として、次年度使用額ほぼ全額を配分する。以上のように行動することにより、昨年度はできなかった調査を効率よく進行させる。
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