本科研の研究目的①西インド不況問題と不況対策としての砂糖減税問題については、初年度に調査をほぼ終え、次年度に『イギリス近世・近代史と議会制統治』吉田書店、2015年「第9章」として成果をまとめた。 本科研の研究目的③賠償受給者の人物像と賠償金の行方については、初年度に論文「研究動向:イギリス家族史・個人史の伝統と現在―アマチュアと営利企業の進出する歴史学―」で方法論を整理したのち、その方法論に則って調査を進め、最終年度に『ボディントン家とイギリス近代 ロンドン貿易商1580-1941』京都大学学術出版会、2017年「第4部」で、ボディントン商会という一族については、奴隷賠償金を西インドに再投資して砂糖プランテーション経済の再編に一定程度貢献したことが明らかとなった。またボディントン商会調査の過程で、そのほかの何人かの奴隷賠償金受給者について明らかにすることが出来たが、その多くはボディントン商会のような貿易商への債務を決済するのに賠償金を使用し、その後は西インドと関係を絶っていることも明らかになった。この問題については、賠償金受給者は他にも多数いるので、今後も調査を継続する。 本科研の研究目的②賠償のためにイギリス政府が行った借り入れの返済過程は、当初の見込み通り19世紀後半の議会歳入歳出委員会議事録に情報があることが確認されたが、これについてはまだ十分な読み込みを行っておらず、成果をまとめるにはいたっていない。ただしこの問題については、本科研期間では調査の方法や資料的可能性を探ることが課題であり、そこまでは果たせた。 そのほかに、2014,2016年の現地調査を通して、当初の研究目的にはなかった現在の西インドにおける歴史的過去の記憶・事物としての残存状況という新しいテーマを設定した。このテーマにそって、新たに科研費基盤研究(C)を申請し、2017年度から取得した。
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