平成26年度に日本語で公刊した近世ブラウンシュヴァイク公国の財団史に関する論稿の完全版を、ドイツ語で現地雑誌に寄稿することができた。科研費交付期間に日独同時出版を果たせたのは大きな喜びである。 平成27年度に開始した近世バーゼルの財団史の研究に大きな進展があった。今年度も8月と3月にバーゼル大学歴史学部の招待でバーゼルに滞在し、史料の収集に当たった。その結果バーゼル大学の研究教育助成財団については、史料の収集・翻刻をほぼ終えることができた。今後研究成果の日本語とドイツ語による同時出版を目指すことになる。現地雑誌としてはバーゼルの名門誌Basler Zeitschrift fuer Geschichte und Altertumkundeが当該研究の成果に関心を示している。そこへの寄稿を目指すことになる。 そこで問題になっている教育助成Stipendiumとは、現在わが国で導入が営為検討されている給付型奨学金に当たる。わが国ではこれは国の任務と考えられ、国会で議論されている。導入までには時間がかかりそうだ。しかしドイツやスイスの場合近世以降これを民間の教育助成財団Stiftungが担ってきた長い伝統がある。財団の運営には発起人の意向が最優先され、公的な助成の場合と違い議論によって導入に時間がかかることもない。ドイツ語圏の給付型奨学金について論稿を物することができた。わが国の給付型奨学金導入をめぐる議論の一助になれば幸いである。 近世の財団の重点領域の一つに救貧と呼ばれる福祉がある。バーゼルにも福祉財団がある。しかしそれに関する史料の残存状況が悪く、これまで使える研究もなかった。しかし出納簿を使い、大口の寄贈者を拾い、彼らの追悼説教を探すことで、ようやく研究の突破口が開けた。出納簿の全ての調査にはまだ時間を要するが、個人的に営為考察を続け、できるだけ早く成果発表にこぎつけたい。
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