今年度の成果としては、昨年度に中間成果として公刊した『ヘンリ・アダムズとその時代』で提示した解釈の独創性を明らかにするため、『アメリカ研究』第51号に、アメリカ政治史研究で現在でも広く参照されているR・ホフスタッターの解釈との相違を論じた論文を発表した。そこで、門戸開放外交の道を斬り開いたJ・ヘイとH・アダムズが従来の歴史家の解釈とは異なってアメリカ国民の良識に対する強い信頼を持っていたこと、この点で国民への不信の強い20世紀中期以降のアメリカ知識人とは異なっており、それが歴史解釈の枠組みにも反映されていることを示した。 研究の最終年度にあたって、本研究全体を通じて浮かび上がった新しい研究上の論点を考察したが、その核は、第一に門戸開放外交の推進基盤が1812年戦争以降に北米の内陸開発とアジアと南米を志向する海洋貿易の振興の二つを推し進めた体制と深く関わっていたこと、また第二にそうした陸と海路の開発のいずれにおいても重要であったのは連邦政治の決定に死活的な重要性を持った世論の役割であったこと、である。前者は2000年以降に活発化した建国期とジャクソン期をめぐるグローバル社会とアメリカとの関係を強調した研究との架橋が可能であり、また後者は2016年大統領選挙におけるトランプ当選をめぐる公共圏の在り方の議論と関係するので、大きな学問的意義があると思われる。 残念ながら、この二つの点を論じたものは最終年度に発表することはできなかったが、研究が終了した5ヶ月後の2017年9月にアメリカ史学会のシンポジウムで報告し、これを受けて研究全体の成果を2018年に単著として公刊する予定である。
|