本研究の最終年度に当たる平成29年度には、論文1点とシンポジウム報告1点を、成果として得られた。論文は、1990年代以降に制定された4つの法をめぐる議論をテーマとしたものである。4つの法とは、ユダヤ人迫害の過去、奴隷貿易・奴隷制の過去、植民地支配の過去、アルメニア人虐殺の過去に関して制定されたもので、それぞれが今日どのように捉えられているかという、現代の歴史認識を反映したものとなっている。いかなる立場からいかなる過程を経て制定されたのか、基本的にはすべて性格を異にしているが、本論文では、一見異なる脈絡から成立したこれら4つの法が、根底においては、今日誰を「国民」とするかという観点からすれば、密接に関連していることを解読した。こうした作業は、サハラ以南アフリカ出身者(すなわち黒人)をめぐる認識のありようを、他の事象とすり合わせることによって、より鮮明に把握する一例ともなった。従来あまり言及されることのなかったアルメニア人に関する法も含めて考察したからこそ得られた論点で、意義あるものとなった。 2月3日に開催されたシンポジウムは、中央大学社会科学研究所が毎年行っているもので、2017年度は「理論研究」チームの企画により「ジェンダー・暴力・デモクラシー」という共通テーマが設定されていた。本研究ではサハラ以南アフリカをめぐる歴史認識への理解を深めるために、カリブ海植民地や奴隷の問題、ひいては「黒人」をめぐる問題にも視野を開いているが、本報告は革命期に奴隷植民地で起きた反乱を取り巻く状況、その経緯、さらに今日における想起のあり方を議論したものである。従来、十分に取り上げられなかったジェンダーの問題にも切り込むことができ、今後につながると考えている。 29年度末にはフランスへの出張に出かけた。短期ではあったが、29年度の成果をまとめるにあたり最終段階の確認と補強をすることができた。
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