研究実績の概要 |
ローマ帝国の東方と西方の民会を比較検討するという本研究課題に照らして、平成26年度はギリシアや小アジアなどに代表される帝国東方諸都市の民会の有り様を研究の中心に据えた。 先ずは、帝政前期における文学史料を確認してみた。その結果、文学史料では、2世紀初の属州ビテュニア・ポントゥスの総督プリニウスが民会決議に言及しており(Plin., Ep.10.110f.)、古代ギリシア以来の民会の存続が確認された。また2世紀末から3世紀初まで活躍した元老院議員ディオ・カシウスはローマに関する『歴史』52巻の中で、民会が騒擾を起こす危険性を指摘し、民会の停止について提言していた。これもディオの同時代における民会の存続と弊害を実感させよう。他にも民会に言及する文学史料は多い。 次に、注目されるのは、東方の民会に関する碑文史料の多さである。これについては、P. J. Rhodes, The Decrees of the Greek States, Oxford 1997, Part II Cataloguesがきわめて有益な情報を網羅的に提供してくれる。すなわち、東方では帝政前期においてすら民会決議が頻繁に出されていた。以上を踏まえれば、民会が制度的に機能していたことがわかるのである。 このように、帝政前期の東方では、民会が想像以上に活発に動いていた。その活力はディオが民会を騒動の温床とみなすほどであった。 ならば、帝国西方の民会はいかなる動きを示すのか。興味深いところである。次年度の課題としたい。
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