研究課題/領域番号 |
26370888
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小杉 康 北海道大学, 文学研究科, 教授 (10211898)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 続縄文 / 礼文華遺跡 / K39遺跡 / イルカ狩猟 / 集団関係 / 土器群構成 |
研究実績の概要 |
本年度の研究の主要課題である礼文華遺跡の発掘調査(第5シーズン)は、前年度の調査に引き続き遺跡範囲の北寄りの遺構が密集する地点(土坑墓群、住居址、貝塚が集中する地点)で実施した。昨年度設定した発掘調査区(9×9mのグリッド)を南西側に拡張し、全体の発掘面積は43㎡である。これまでに確認していた貝層及び土坑3、副葬土器のある土坑墓1、イルカ頭骨が出土した土坑墓2の発掘を実施した。調査の結果次の点が明らかになった。(1)貝層の時期は続縄文期初頭の時期であると推測される。(2)土坑1からは石製銛頭などの大量の副葬品が発見され、漁撈活動に関連した人物の墓址であることが確かめられた。(3)土坑2は、昨年度までの調査ではイルカ頭骨が副葬された土坑墓であると推測されていたが、発掘の結果、2基の土坑の重複であり、イルカ頭骨の出土は重複する下位の土坑にともなうものであることが判明した。(4)土坑3では続縄文期の埋葬人骨を発見したが、後世の攪乱を受けており、脆弱な状態であるために、土層からの検出のみで、取り上げは次年度以降の課題とした。以上のように、イルカ狩猟集落の具体的な構成内容が明らかになりつつある。 また、生業面において礼文華遺跡との比較研究を行い、かつ道南(太平洋側)-道央(日本海側)間の集団関係の実態を明らかにするために、札幌市に所在するK39遺跡の既発掘資料(北海道大学埋蔵文化財調査センター保管)の資料調査を実施した。特に土器群構成の分析の結果、集団間の接触の具体的な状況が明らかになりつつあり、一定の成果が収められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イルカ狩猟の母村的集落である礼文華遺跡と、オットセイ狩猟のキャンプ地的性格の小幌洞窟遺跡との具体的な関連を明らかにし、同地域(礼文華地域)全体にわたっての当時の活動内容(地域経営)の実態を解明するために、これまでは礼文華遺跡の範囲確認と発掘調査を主に実施してきた。発掘調査は当初予定の70%ほどが終了した。小幌洞窟遺跡の既発掘資料の再整理・再分析はこれまでに約60%が終了している。また今年度からは、日本海側において河川漁労活動を行っていた同時期の集落遺跡との比較検討を行うことによって、太平洋岸の海獣狩猟遺跡の性格を対照的に明らかにし、同時に地域間の集団関係の具体的な内容を検討しているが、予定の分析量の約60%が終了した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、礼文華遺跡の発掘調査と出土遺物の整理には多くの時間を必要とするために、データの不足分を厳密に確認し、それを補うための限定的な範囲の発掘調査を行う必要がある。 礼文華遺跡の発掘調査成果と比較対照するデータとして小幌洞窟遺跡、並びにK39遺跡の既発掘資料の分析(分析量共に約40%)を今年度中に終了する予定である。 以上の成果の公開方法としては、発掘調査に関しては発掘調査報告書の作成・刊行、関連遺跡の資料分析は学術論文の発表等を予定しているが(本年度~最終年度)、これらと合わせて現地における史跡の整備保存の中で学術成果を公開してゆく方法を計画している。具体的には現在進行中の「噴火湾北岸縄文エコミュージアム」活動の中で、礼文華遺跡と小幌洞窟遺跡をサテライトとして整備する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの調査・研究の成果を一般市民(縄文エコミュージアム参加者など)向けの研究成果広報活動用のパンフレットとして作成(印刷・製本)する予定でいたが、そのための現地調査と地元教育委員会との打ち合わせの時期とが調整つかず、3月になってしまい、予定の期間中に印刷まで作業を進めることができなくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
残額分は当初予定していた上記アウトリーチ作成・印刷のための予算とほぼ同じ金額なので、本来の次年度計画にそのまま加える形で使用する計画である。
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