研究課題/領域番号 |
26370895
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
野島 永 広島大学, 文学研究科, 教授 (80379908)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 弥生時代 / 鉄器文化 / 鍛造鉄器 / 鍛冶実験 / 製錬実験 |
研究実績の概要 |
本年度は西日本の鍛冶遺構出土遺物の情報収集・分析とともに、製錬・鍛冶実験、製錬実験において生成した含鉄試料サンプルなどの金属構造分析・理化学分析を行った。 また、中国・四国地方における鍛冶遺構出土遺物の実物観察・実測・写真撮影を行い、3次元画像データを作成した。西日本の鍛冶遺構関連情報の収集とともに、鍛冶炉の形状から想定された機能・性能と、鍛冶関連出土遺物の形状・点数等の比較から相関関係の確認を行った。その結果、鍛冶遺構の調査状況や微小鉄片などの検出・収集方法などに不確定な部分が多いものの、単純な炉形により、機能が制限されると考えられる鍛冶炉の周辺には、より多くの微小鉄片(遺棄鉄片)が遺存している可能性を想定することができた。 しかし、鍛冶遺構の形状・性能と周辺の出土鉄器の形態的特徴に関しては明確な関連性を想定できてはいない。今後、本課題の検証とともに合理的な鍛造鉄器生産・普及の状況を考究していくこととしたい。 また、リモナイトによる簡易な製錬実験によって生成した含鉄物質の理化学的分析を行った。金属鉄部分は亜共析組織が部分的に確認されたものの、ほぼフェライト(Ferrite)単相の組織であった。しかし、全試料で硫化物が確認され、定性・定量分析から、FeOとFeSの共晶組織が多く存在していることが判明した。つまり、簡易な製錬作業では硫化物の分離が行い得なかったことが想定され、リモナイトの製錬においては硫化物を含みこんだ鉄原料になる可能性が高く、鍛冶加工を行うことが難しくなることも想定せねばならない結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は研究代表者の所属する講座・研究室(分野)の就労環境が変化した。また、大学院進学者も減少し、平成26年当初に計画していた製錬・鍛冶実験、文献・遺物情報収集が十分には行えなかった。 このため、これまでの調査研究成果については、今年度2本の論考として公表することができたものの、大学院生への人件費を伴う2回分の製錬・鍛冶実験、資料収集の作業が滞ってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成29年度も引き続き、弥生時代の鉄器・鍛冶関連遺物の抽出を行うとともに、製錬・鍛冶に関わる実験作業とその金属構造分析・理化学的分析を継続することとする。またそれらの実験に関する分析とともに、鉄器生産にかかわる鍛冶遺構と鉄片などの微細遺物、さらには周辺地域から出土する弥生時代鉄器(鉄鏃)などの情報を総合しつつ、遺構・遺物からみた弥生時代鉄器化の実態についての検証を行っていくこととしたい。 平成28年度は鉄器生産を中心とし、他の器物生産との複合化・集約化といった視点から、主工業生産の実態を示し、手工業生産と物資流通構造の変容を考察した。その研究成果を公開していったが、今後も鍛冶遺構の総合的な考察を機軸とし、金属資源と生産技術の掌握過程からみた流通構造を明らかにしていくこととしたい。 またさらに、金属遺物の組織構造分析をすすめるために先端的理化学分析技術の応用を試み、新たな調査研究分野を創出していく基礎作業にも取り組みたい。そして、近年の国際化に伴い、海外への日本考古学の最先端研究に関する成果発信をも試みていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度、予期していなかった授業・業務負担の増加、大学院生の不在といった事態により、研究活動の一部に支障をきたした。大学院生を雇用して行う計画を予定していた製錬・鍛冶実験とともに実験に関わる理化学分析を行い得なかったため、人件費・謝金、その他(分析医委託業務)予算について、執行不良に陥った。さらに、関西周辺への鍛冶関連遺物の情報収集が行えなかったことから、旅費の予算執行も不十分となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、昨年度行いえなかった製錬・鍛冶実験を行うこととし、製錬・鍛冶実験に関する理化学分析も今年度も行うこととしたい。また、関西周辺の鍛冶関連遺跡などの情報収集に努めることとしたい。
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