平成28年度は引き続き今山系石斧に関する総合調査を推進した。研究の具体的な目的は、今山系石斧と称される玄武岩製の弥生時代の石斧が、今山産出(福岡市西区所在)の玄武岩だけでなく、未知の玄武岩を使用して製作されていることが判明したため、新たな産地を探索することである。また、今年度は今山に隣接する今津遺跡出土の石斧を分析したところ、当初予想された毘沙門山の玄武岩ではなく、今山の玄武岩を使用していたことが判明した。このことは毘沙門山の玄武岩を弥生時代においては利用していない可能性が出てきており、今山周辺地域では今山のみの玄武岩を利用している実態が明らかになりつつある。なお、石材の分析には地球科学の分野で用いられる高精度な分析手法を駆使し、全岩化学組成、微量元素、希土類元素の組成比較、鉱物化学組成、鉱物の組み合わせを実施している。また今年度は、非今山系玄武岩の産地として嘉麻市の琴平山の玄武岩、壱岐市の玄武岩の露頭調査を実施し、新たな産地の石材サンプルを採取した。しかしながら採取したサンプルに対して分析を実施したが、新たな産地の発見には至っていない。初年度配備したマルトー社製の卓上コアピッカーを今年度も改良し、対象資料の様々な形態に対する汎用性を高めた。その結果、多くの石斧資料に対してサンプル採取が可能な機器として改造することができた。本年度は研究の最終年度であるが、ここで研究の成果を簡潔にまとめる。 1今山の玄武岩以外の玄武岩を使用している石斧が存在する。 2その非今山玄武岩の産地は現状では不明である。 3今山に隣接する毘沙門山の玄武岩は考古学的に使用されているとされてきたが、本研究では使用されていないことが判明した。 4今山の玄武岩を利用した石斧は北部九州一円に広がっている。
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