研究課題/領域番号 |
26370909
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
澤田 むつ代 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (40215918)
|
研究分担者 |
三田 覚之 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, 研究員 (00710493)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 法隆寺献納宝物 / 正倉院宝物 / 上代裂 / 文化財保存 |
研究実績の概要 |
本研究は我が国において出土、また伝来した染織作品を通じ、広く古代東アジア世界における染織文化の実像を明らかにしようとする試みである。これまで日本染織史の分野で研究されてきた作品を国際的な文化交流の枠組みで捕らえなおし、我が国に伝来した染織作品がもつ意義の大きさを明らかにしたい。また、考古遺物に付着した繊維を詳細に検討することで、現在では形の失われた作品の遺存状態や織物などの種類や仕様等を通して現存作品と比較検討し、古代東アジアにおける染織品の使用法についても、その実態の解明を目指すものである。以下、当該年度の実績を記す。 1.染織作品館内調査等:東京国立博物館所蔵の染織品(以下、法隆寺裂)のうち、列品と未整理品の調査と写真撮影を行い、資料の蓄積を行った。これらは点数が多いため、次年度以降も継続して行う予定である。これらの成果として、博物館において特集陳列「甦った飛鳥・奈良染織の美」を開催して、リーフレットを制作し、列品解説も行った。また、文化財保存修復学会においてポスター発表を行った。さらに、法隆寺裂の献納経緯と技法・文様等について外部講演を行った。 2.考古作品外部調査:金鈴塚古墳出土品(千葉県・木更津市郷土博物館金のすず)、瓢塚古墳出土品(千葉県成田市・房総のむら風土記の丘資料館)、石原稲荷山古墳等出土品(群馬県・高崎市観音塚資料館)、マケン堀横穴墓出土品(鳥取県西伯郡南部町教育委員会)、上塩冶横穴墓出土品(島根県埋蔵文化財センター)、九州国立博物館開催の「古代日本と百済の交流」展、島内地下式横穴墓出土品(宮崎県・えびの市歴史資料館)、入西石塚古墳出土品(埼玉県・坂戸市立歴史民俗資料館)。上記、各出土品については調査と写真撮影をし、資料の収集等を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究はおおむね順調に進展している。考古の遺物に付着する繊維等については、発掘調査報告書刊行には欠かせない要素になってきており、需要が高まってきていることから、本格的に調査を行った。考古分野においては、しばしば遺物に付着する繊維が発見されているが、これまで染織は染織史、考古は遺物中心で、その扱う分野自体が縦割りに分割されてきたため、学際的な視点から見直されることは極めて稀であった。このため、相互の研究交流があってこそ、はじめて実像が見えてくるに違いないと考えていることから、両研究分野の橋渡しを意図している。こうした視点での分野を越えた横断的な研究は、これまでほとんど行われておらず、ここに本研究の独創性があり、おおむね計画通りに調査を実行することができた。染織史の立場で仔細に調査し、法隆寺裂等の知見を活用することで、付着繊維の技法や用途等を明らかにし、これまで関心が薄かった分野における研究を発展させることができた。 次に外部調査については、今年度の目標の件数をこなすことができた。考古の遺物に付着した繊維については、予定以上の撮影を行うことができた。 また、「正倉院所在の法隆寺献納宝物染織品―錦と綾を中心に―」を執筆し、『正倉院紀要』 36号に掲載された。本論文はこれまで誰も行ってこなかった、正倉院に所蔵される法隆寺裂の具体例を明示したものとして画期的であり、新聞紙上にも取り上げられた。また、学会発表では「劣化で一部粉状化したガラス挟み法隆寺裂修理方法の一例―東京国立博物館所蔵作品の事例―」について法隆寺裂の修理の事例を公開でき、一般及び研究者にも関心をもっていただけた。さらに、考古の分野でも遺物に付着した繊維については、仕様や用途について法隆寺裂を基に推測し、これまでにない研究発表を行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
法隆寺裂については、これまでスケールを入れての撮影はほとんど行われていなかった。スケールを入れることで、同種の織物等の文様や織り密度等を画面上で比較検討することができるようになる。また、これまで調査や修理等が行われていない作品についても、詳細な調査を行うことで、適切な修理の仕様と保存方法について検討し、後世へ安定した状態で伝えていきたい。 考古の分野において、しばしば遺物に織物等が付着していることがある。これらは考古の研究者においては関心があっても、踏み込んだ研究がなされていないのが現状のようである。こうしたことから、織物の付着状況を通してその種類や仕様を検討することで、棺内や古墳等に遺物を埋納する際に、織物がどのようにかかわっていたかを見極めることは非常に重要であると考えている。ひいては遺体の埋葬仕様を推測することも可能になると考えている。遺物に付着する織物等については、外部からの調査依頼もあり、今後もこの分野においては発展性が見込まれるため、積極的に調査を実施し、考古の遺物に付着する織物等から古代裂における織物等の発展について橋渡しをしていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国内調査一件が、日程の都合により、翌年度行なうことになったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
国内調査の旅行費として使用する。
|