本研究は我が国において法隆寺献納宝物や正倉院宝物伝来、また古墳等から出土した染織作品を通じ、中国・朝鮮半島・日本といった、広く古代東アジア世界における染織文化の実像を明らかにしようとする試みである。 これまで日本染織史の分野では、個別的な技法研究や文様研究が中心に行われてきているが、本研究は、これらの作品を物質を通じた国際的な文化交流の枠組みで捉えなおすことを目的としている。 法隆寺献納宝物や正倉院宝物に代表されるように、我が国には周辺諸国ではほとんど現存していない古代の染織作品が、出土資料ではなく、伝世作品として多数保存されているが、こうした作品が古代世界でどのような意味を持っていたのか、国際的な枠組みからその意義の大きさを明らかにしたい。 また、古墳などに副葬品として埋納された考古遺物に付着する繊維等を詳細に調査・検討することで、現在では形の失われた作品の遺存状態や織物などの種類、仕様等を通して、現存作品と比較検討する。こうした研究手法を通じ、古代東アジアにおける染織品の使用法についても、その実態の解明を目指すものである。
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