平成29年度は研究の最終年度で、大宰府史跡及び大宰府管内出土陶硯の補足収集を行った。大宰府史跡出土陶硯に関しては、蔵司官衙跡出土陶硯の抽出作業を行い、15点の定形硯と183点の転用硯を確認した。その成果は、研究成果報告書附編『西海道官衙遺跡等出土陶硯集成』に掲載した。 転用硯の認定に際して、器面が磨滅している須恵器に関しては、倍率50倍のルーペ、或いはデジタルマイクロスコープ(倍率100倍)を用いて器面観察を行い、墨痕が付着しているか否かを詳細に観察した上で転用硯の可否を判断している。この方法だと、土器の器面にある微細な凹凸に入り込んだ墨痕を確認することができ、転用硯か否かの判断には極めて有効な方法であることが確認できた。また、当館所蔵の蛍光X線分析装置で朱墨が付着した陶硯を分析した所、赤色顔料は辰砂ではなくベンガラであることが判明した。この様に、X線CTスキャナ、高倍率の顕微鏡、赤外線カメラ・スキャナ、蛍光X線分析装置等を駆使した科学分析は、製作技法・墨痕状況・朱墨の素材等を分析する上では欠かせないものといえる。 研究成果発表としては、研究成果報告書「大宰府管内出土陶硯の化学分析的研究」を刊行し、論文等「大宰府の役人と文房具について」(都府楼49号 2017.1 2 公益財団法人 古都大宰府保存協会)、特別展図録『大宰府への道-古代都市と交通-』共著 2018.4、発掘調査報告書『大宰府政庁周辺官衙跡ⅩⅠ-広丸地区遺物編-』共著 2018.3九州歴史資料館がある。講座としては、太宰府市民講座「大宰府史跡について」(平成29年8月10日・太宰府市プラムカルコア太宰府)、県政出前講座「大宰府史跡について」(平成29年9月14日・朝倉市立石コミュニティセンター)、ふれあい館講座「大宰府発掘50年を振り返って」(平成29年11月3日・太宰府市文化ふれあい館)を実施した。
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