本研究では,衛星画像と衛星観測による地形データを利用して,中央アジアおよび西アジア地域における歴史的集落の立地と形態を明らかにした。当該年度においては,2014年10月のヨルダンでの調査,2015年3月のキプロスでの調査,2015年9月のウズベキスタンでの調査の総括を行った。 ウズベキスタンでの調査では2013年11月の調査に引き続き,カシュカダリヤ川流域を重点的に踏査した。衛星画像に見える巨大で明瞭な城壁遺構は,エル・クルガンと呼ばれるもので,紀元前7世紀にさかのぼる重要なものであった。衛星画像や地形データのより詳細な検討を経て,多重の囲郭を持つ複雑な構造の都市遺跡であることが判明した。三重の方形囲郭を持つオディルマ・シャフルは,表面に散乱する陶片などからヘレニズム時代(紀元前4世紀)にさかのぼることが分かり,さらに地下の上水道の存在も確認した。この都市遺跡は地元の考古学者も知らないもので,重要な発見であった。そのほかにも多くのテパ(丘状遺跡)を衛星画像と現地で確認・検討し,ユーラシアの歴史的都市を体系づける有力な素材を得た。成果の一部は『地域と環境』14号(2016年)に論文として掲載した。以下にその摘要を掲載する。 「本稿では,前稿(小方 2014)の方法を踏襲しつつウズベキスタンのカシュカダリヤ川沿いに分布する都市・集落遺跡について,その分布・立地および形態を明らかにした。衛星写真上で遺跡と思われる地物を特定し,現地調査で確認した。その多くは「テパ」と呼ばれる丘状遺跡であり,それらの形態から共通する要素を抽出して,一般化を試みた。今回調査した中では,エル・クルガンとオディルマ・シャフルという多重の囲郭からなる遺跡が,従来の都城系譜研究にない知見を与える重要なものであった。」
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