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2015 年度 実施状況報告書

地域社会における格差・不平等生成過程の解明-様々な差異を孕む社会空間に着目して-

研究課題

研究課題/領域番号 26370923
研究機関奈良女子大学

研究代表者

吉田 容子  奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード差異 / 格差・不平等 / 社会空間 / 地域社会 / ジェンダー / 人種
研究実績の概要

本研究の主たる目的は,地域社会において格差や不平等,差別や排除が生じる仕組みを明らかにすることである。27年度は,終戦後に現れた米軍基地周辺の遊興街という空間を研究対象として,そこでの行為主体による空間の実践に着目して当時の地域社会の中で生じた差別や抑圧を明らかにするアプローチを行った。具体的には沖縄県国頭村金武町を取り上げ,現地での資料収集および聞き取り調査を実施した。
沖縄本島のほぼ中央に位置する金武町には,現在もキャンプ・ハンセンをはじめ米軍基地関連の施設が多数配置されている。それら施設の建設は1950年代後半から始まり,ベトナム戦争中は約8千人がキャンプ・ハンセンに駐屯した。キャンプ・ハンセンの建設が本格化した1959年頃,地元地主らによってキャンプ・ハンセンの南に広がる畑地に商業地区をつくる計画が持ち上がった。1961年には,この地区で対米軍関係の飲食店や風俗店が営業を開始し,「金武新開地」とよばれた。
27年度の調査では,ベトナム戦争当時に金武新開地でキャバレーを経営していた2名から,当時の貴重な情報を聴取できた。新開地で米兵相手の店舗を営んでいた多くは,金武以外の県内出身者や奄美大島など離島出身者で,地元住民は土地や店の権利を貸していた。こうした店舗で米兵の相手をしたのも,県内他地域や離島出身の女性で,彼女たちは自分の性を売りながら生計を立てていたが,前借金は嵩む一方で,性病に罹患すれば‘使い捨て’となった。他方,米兵の間では白人/黒人兵士の闘争があり,新開地内では,米兵・米軍属の立入りを許可する「Aサイン」を取得していない店舗を中心に黒人テリトリーが形成されていた。当時の新開地は,金武以外から多数の流入者を包摂し,その内部では行為主体の間で様々な軋轢が生じていたと考えられる。米軍基地周辺の遊興街という空間における複雑な関係性を,さらに明らかにする必要がある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

戦後つくられた米軍基地周辺の遊興街を取り上げ,そこでの多様な行為主体による空間の実践に着目して,当時の地域社会の中で生じた差異や差別を明らかにする作業では,沖縄県沖縄市を対象に調査を進める予定でいたが,同県国頭郡金武町社交飲食業組合(前身は,日本復帰前の「金武Aサイン組合」)を紹介され,27年度は金武町で調査を実施することにした。沖縄県内では那覇市や沖縄市が,戦後の米軍基地建設やその周辺につくられた遊興街に関する資料を多く持っており,すでに地理学,社会学,歴史学,女性学などの方面から研究のアプローチがある。しかし金武町では,そうした資料がほとんど残っておらず,当時の状況を知る高齢の方からの聞き取り調査が,資料収集の重要な手だてとなる。今回の調査で,ベトナム戦争当時に遊興街で店舗を経営していたインフォーマントを得られたことは非常に貴重であった。
他方,旧産炭地域を対象にして,地域社会における格差や不平等の問題を具体的に浮き彫りにする作業については,26年度からの文献資料収集の整理,および,本研究の準備段階として25年度に北海道夕張市で実施した現地での聞き取りやアンケート調査の結果をまとめ,勤務機関の研究紀要に載せた。

今後の研究の推進方策

28年度は,旧産炭地域として北海道夕張市および三笠市での現地調査を行う。また,戦後米軍基地周辺の遊興街の事例として,国頭郡金武町での聞き取り調査を継続して行うとともに,沖縄市役所の協力を得て,戦後のコザの状況に詳しい方への聞き取り調査を実施する。これらの調査結果や収集文献を整理して,地域社会において格差や不平等,差別や排除が生じる仕組みを解明していく。
研究成果の一端は,28年度のIGU(国際地理学会議)北京大会で口頭発表する。さらに,地理学関連の学会誌への投稿を準備する。

次年度使用額が生じた理由

27年度は,勤務校における委員会活動が多忙(緊急に調査・報告を行う業務が発生)であったうえ,学会活動の面でも定期的に研究会の企画・開催するなど運営面で責任ある役割を果たした。また,夏季休業中は英語投稿論文の執筆に時間を割いた。これらの理由で,まとまった日数を現地調査に充てることができず,おもに旅費として使用計画を立てていた分に残額が生じた。

次年度使用額の使用計画

28年度は,8月下旬に北京で開催されるIGU(国際地理学会議)の大会で研究成果の一端を口頭発表するので,その旅費に使用。また,北海道の旧産炭地域(夕張市など)と沖縄県内の米軍基地所在地(沖縄市や金武町)周辺の遊興街について引き続き調査を行うため,その旅費として使用する。そして,収集資料や調査結果の整理として,学生アルバイトを雇用する予定。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] 北海道夕張市の財政破綻から再生への取り組みと住民生活の現状-地域経済と高齢化が抱える問題-2015

    • 著者名/発表者名
      吉田容子
    • 雑誌名

      奈良女子大学地理学・地域環境学研究報告

      巻: Ⅷ ページ: 93-110

    • オープンアクセス
  • [学会発表] Formation of entertainment district around the U. S. military bases after the war in Okinawa: the politics of gendered space2016

    • 著者名/発表者名
      YOSHIDA Yoko
    • 学会等名
      The 33rd International Geographical Congerss(IGC)
    • 発表場所
      China National Convention Center in Beijing
    • 年月日
      2016-08-23
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2017-01-06  

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