研究課題
本研究の目的は、地域社会において格差や不平等、差別や排除が生じる仕組みを明らかにすることである。出自、学歴、職業、所得階層、居住歴、年齢、ジェンダー、エスニシティなどの違いが地域社会や都市空間をどのように分断していくのかを明らかにするため、研究を遂行した。調査対象地域の一つめは、沖縄県国頭郡金武町である。1950年代終わりから米軍基地キャンプハンセンの建設が始まり、ベトナム戦争時には、最大約8千人が戦地への派遣を待って、当該基地に一時的に滞在した。基地のメインゲートすぐ南側で営業を始めた金武新開地は、飲食店、風俗店、質屋、土産物店、理髪店などで構成され、米兵・米軍属を顧客とした。当該新開地の土地を所有する金武住民から借地して店を経営する者やそこで働く女性の多数は、沖縄本島周辺の離島出身者であった。つまり金武では、米軍基地のない離島から沖縄本島への(出稼ぎ)移住が顕著にみられた。米兵・米軍属相手の商売、とりわけ女性を雇用しての風俗営業には、世間体が悪いとして手を出さなかった金武の住民とは対照的に、当該新開地は離島出身者を包摂する空間、換言すれば、金武住民から排除された空間となった。さらに、米国本国の人種問題も持ち込まれ、黒人兵相手の飲食店や風俗店は、白人兵相手の店から嘲笑された。米軍基地周辺遊興街というひとつの地域社会にいかに複雑な関係性が作用していたか、明らかである。二つめの対象地域には、旧産炭地域の北海道夕張市と隣接の三笠市を選定した。危険と隣り合わせの炭鉱労働は、労働者の結束はもちろんのこと、世帯同士のつながりを基盤とする炭鉱社会を形成してきた。戦前・戦中は朝鮮半島からも労働力を動員し、戦後は国内各地から集まったため、土地や家屋を持たない炭鉱労働者の退職や廃坑後の経済状況は不安定にならざるをえなかった。このような、炭鉱社会にみられる排除や差別の問題について検討した。
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Geographical Review of Japan, Ser.B
巻: 89-1 ページ: 4-13
http://doi.org/10.4157/geogrevjapanb.89.4