研究課題/領域番号 |
26370925
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
金 どぅ哲 岡山大学, その他の研究科, 教授 (10281974)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中国朝鮮族 / 国際人口移動 / 多文化 / 民族 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、前年度の韓国でのフィールドワークを続けるとともに、日本に在住している中国朝鮮族移住者に対するインタビューも行った。また、中国現地の言論媒体などの資料を収集し、中国朝鮮族のアイデンティティの変化を分析し、中国朝鮮族社会における「韓民族」言説の変化について検討を行った。 分析の結果、インタビューに応じた多くの中国朝鮮族が、国籍としては「中国」、民族としては「漢民族」として認識しており、これらの多重アイデンティティは話者と相手との関係によってその強弱を変えられることが確認された。韓国に在住している中国朝鮮族の中には、滞在の身分によって大きく長期滞在型と出稼ぎ型に分けられることが分かった。すなわち、主に1930年代以降に朝鮮半島に中南部から満州に移住した祖先をもつ者は祖先の戸籍や親戚の人的保証などを頼りに韓国籍へ変えるケースが多く、彼らは依然として「朝鮮族」としてのアイデンティティを保ちながらも韓国での永住もしくは長期滞在を希望している。他方、満州への移住時期が早く祖先の出身地が北朝鮮である者は5年間のマルチビザで滞在しているケースが多く、不安定な身分のため老年期には中国での生活を考えている傾向があった。さらに、注目すべきはこれらの2類型は中国での出身地とも対応していることである。すなわち、前者は黒竜江省や内モンゴル自治州の出身に多く見られる反面、後者は延辺自治州をはじめ吉林省や遼寧省出身者に多いが、このことは18世紀末以降の朝鮮半島から満州への移民の歴史とも深い関連があることも明らかとなった。日本に在住して朝鮮族は日本国籍を取得する者も多く、同じくマイノリティの立場である在日コリアンコミュニティとは一定の距離を保ちながら、独自のコミュニティを形成していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた調査はおおむね終わっており,文献収集も満足できる水準である。ただ,調査内容の特異性のため、定量的なデータの収集は若干不足気味であるが、これはインタビューなどの質的データで補完できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでの韓国でのフィールドワークを続けるとともに,国際人口移動に関する国際会議等で最新の研究動向の収集に努める。また,可能であれば、延辺朝鮮族自治州以外の中国東北3省における朝鮮族集中地区での調査も現地と調整しながら行い、中国朝鮮族社会における「韓民族」言説の変化がもたらした地域社会への影響についても調査を試みたい。平成28年度には,日本地理学会でそれまでの研究成果を発表すると共に,報告書をまとめ,日本と韓国の地理学会誌に投稿する予定である。さらに、さらに,近年の韓国企業のベトナム進出が加速化するにつれて,韓国へ移住した中国朝鮮族が韓国企業とともにベトナムへ再移住するケースも増えているので,ベトナムにおける韓国企業と中国朝鮮族との関係についても資料を集める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は中国延辺自治州での現地調査を予定していたが、現地の資料を研究協力者から提供されたので、中国現地での調査はその資料の分析後に行うこととした。そのため、1回分の中国調査費用がH28年度へ繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度中に中国調査を予定しており、繰り越し分を含め執行できると思われる。
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