研究実績の概要 |
本研究では,多様な移住過程と適応を経験している中国朝鮮族移住者および彼らと日常的な相互作用を行っている韓国の近隣住民に対する深層インタビュー等を通じて,中国朝鮮族をみる多様な視点を明らかにし,彼ら自身のアイデンティティの分化過程を解明することによって,韓国社会と中国朝鮮族社会における「韓民族」言説の多重性を究明することを目的としている。 韓国の中国朝鮮族集住地域を主なフィールドとした3年間の調査を通じて次のようなことが明らかとなった。1)中国朝鮮族の海外出稼ぎ(韓国へ移住)は韓国政府の受け入れ政策の緩和に対応しながら拡大され,中国朝鮮族集住地区も時代ごとに移り変わっていた。2)多くの中国朝鮮族は国籍としては「中国」,民族としては「漢民族」として認識しており,これらの多重アイデンティティは話者と相手との関係によってその強弱を変えられる。3)中国朝鮮族の「漢民族」アイデンティティは中国での出身地によって異なる傾向が確認された。すなわち、中国への移住の歴史が長い延辺自治州をはじめ吉林省や遼寧省出身者と比較的に移住の歴史が短い黒竜江省や内モンゴル自治州の出身者を比較すると,後者の方が「漢民族」アイデンティティを強く保持している傾向があった。3)中国朝鮮族集住地区においても社会的な隔離が進行しており,移民者集中地域でよく見られる地域住民の二重的な態度が確認された。 なお,平成28年度は前年度までの韓国でのフィールドワークを続けるとともに、ベトナムの韓国系企業に勤めている中国朝鮮族移住者に対するインタビューも行った。現在,それらを踏まえて中国朝鮮族のアイデンティティの分化課程に関する投稿論文を執筆中である。
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