平成28年度は、旧社会主義都市のブダペストにおける現地調査を行い、主に次の3点を明らかにした。 まず、ブダペストでは1990年に市政府から区政府へ都市政策に関わる権限が移譲されたが、区政府には確固たる住宅政策がなかった。社会主義体制下において住宅は十分な維持管理がなされず、トイレやバスも備えられていなかったため、住宅の取得後に自らの施設内に設備をつくる人たちが多かった。1990年代以降、都心にあるV区ベルヴァロスでは、オフィスビルの建設や商業化が進められ、人口は減少した。都心から離れていたり、老朽化した住宅は公共所有のままとされ、それらの多くは社会的に衰退した近隣にあった。 次に、VIII区ヨージェフヴァロスではロマの居住者が多く、所得が低く住宅を購入できなかったため、公的住宅が多く残っている。区政府とEUによる建物の修復への補助により、住宅の物的状況は改善されてきた。 また、VII区エルジェーベトヴァーロシュのユダヤ人街では、2004年よりユダヤ人文化遺産保護の活動により歴史的建築物が残されているが、建物の多くは修復されずに物的衰微が進んできた。外国資本をはじめとする投資により、歴史的な建物を部分的に残す共同住宅開発が進みつつある。このように歴史的市街地においては、社会的・経済的な格差による地理的不均等が拡大している。 2017年3月には、藤塚吉浩『ジェントリフィケーション』古今書院を刊行し、資本主義都市と旧社会主義都市におけるジェントリフィケーションに関する研究成果を公開した。
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