本年度は、1920年代に刊行された『支那省別全誌』全18巻と、1940年代に刊行されたが、戦争により全22巻の刊行予定が9巻までの刊行で断たれてしまった『新修省別全誌』の刊行分の省について、1920年代の省と比較できることから、両者の比較によって、省を単位とした変化とそれを支えたシステムについて明らかにしようとした。 その際、『新修省別全誌』9巻は、旧版刊行のさいにあまり調査が出来にくかった辺境に存在する省を中心に刊行がスタートした。四川省(2巻分)、雲南省、貴州省(2巻分)、陜西省、甘粛・寧夏、新疆、青海省・西康省がそれで、まさに辺境地帯の9省が中心となった。したがって、メインランドの省についての時間的変化を直接的に分析することはできないが、辺境地帯は中心地帯にあたるメインランドと隣接しつながっており、その鏡としてメインランドの変化も想定することはできた。 まず、章構成からこの2つシリーズを比較すると、『支那省別全誌』全18巻は、ビジネススクールをめざした東亜同文書院の学生達の関心が色濃く出ていてテーマ性が読み取れるのに対し、研究者も加わった『新修』シリーズは章立てが各章とも揃えられ、平準化され筋を通そうとしており、地誌として体系化されている。内容的には、民国期の蒋介石政権が、戦後の共産党政権による西部開発政策よりはるか以前に辺境地域を対象にした北西開発政策を実施した影響が読みとれ、インフラ整備とそれをふまえた生産力向上の動きがうかがわれた。それは物流にもみられ、辺境の省ではあるが、隣接省、さらに天津や漢口とのつながりが浮かび上がり、経済圏が相互に重なりあう動きがみられた。それは例えば天津や漢口のあるメインランドの発展と関連していることを十分に示唆しており、1930~1940代初めにかけて、辺境地域が動態化し始めたことかがわかる。
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