日本における少子高齢化の進展や国および地方自治体における厳しい財政状況により,既存の行財政の地域的枠組みの再編(リスケーリング)を模索する動きが相次いでいる。本研究では,これまで市町村が保険者として運営に当たってきたが,2018年度から財政運営の都道府県単位化が予定されている国民健康保険(市町村国保)について,被保険者の諸特性(年齢構成,所得水準,職業構成)や,医療費,保険給付水準を踏まえながら,国保運営の大きな特徴である一般会計からの法定外繰入の状況と各保険者の保険料(税)水準との関係や都道府県単位化に伴う影響を検討することを,主に愛知県における市町村を事例として分析を行った。都道府県別にみた愛知県の被保険者1人当たり医療費は,全国的にみて低水準にあるが,被保険者1人当たり所得水準は高い水準にあり,結果として被保険者1人当たり保険料調定額は中位から高位に位置し,また市町村による法定外繰入も高い傾向にある。市町村別にみると,住民に占める国保加入率は半島部や奥三河等の地域で高い傾向を示し,また被保険者1人当たり現年分保険料調定額については,県南部で高水準の市町が目立っている。歳入に占める法定外繰入金の割合をみると,1%に満たない市町村も多い中で,7%を超える地域が3自治体みられるなど,市町村による財政運営の基本的な差異が指摘できる。この背景として,法定外繰入前の収支割合をみると,3%超の赤字を示す自治体が少なからず存在していることなどがあるものと考えられる。被保険者1人当たり法定外繰入金が10万円を超える自治体が名古屋市の近隣に多いことも地域的な特徴と言える。国保運営の都道府県単位化は,保険者機能が言わば県と市町村との間にまたがる中で,県によって示される標準保険料率の決定方法によって,住民に対する保険料賦課水準の変化が市町村ごとに異なり,今後の協議の焦点になると予想される。
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