研究課題/領域番号 |
26370949
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石井 美保 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (40432059)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インド / 神霊祭祀 / 近代 / 野生 / 環世界 / 反開発運動 |
研究実績の概要 |
本年度は、2008年からインド・カルナータカ州沿岸部(南カナラ)で実施してきた調査研究の成果となる著書の執筆を行った。日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費・課題番号16HP5120)の交付を受け、2017年2月末に単著『環世界の人類学ーー南インドにおける野生・近代・神霊祭祀』を京都大学学術出版会から出版した。この著書において代表者は、ユクスキュルの環世界論を独自に発展させたヴァイツゼッカーのゲシュタルトクライス論を、贈与交換論や人格論をはじめとする重要な人類学理論と交叉させつつ、南カナラにおける人々の日常的実践と、自然=野生の領域を基底とするその環世界との関係について多角的に検討した。この検討を通して、植民地化や近代法制度の施行、そして大規模開発をはじめとする幾度もの社会変化の中で、神霊祭祀を通して自然=野生の領域とのつながりを模索し、創造的に更新してきた人々の実践と、その環世界との相互的な形成と変容の過程が明らかになった。具体的には、①地域の土地・自然と結びついた神霊祭祀と地域社会における土地保有・親族システム・ヒエラルキーの関係、②植民地期以降の南インドにおける近代法の普及と神霊祭祀の変容、③経済特区の建設に対する反開発運動の勃興と神霊祭祀の新たな展開 が本書の骨子である。代表者は、現地調査と行政記録の詳細な分析を通して、母系制をとる領主層の土地保有制度と結びついた神霊祭祀の持続と変容の過程を明らかにした。また、神霊祭祀をめぐる複数の裁判事例と、儀礼にみられる人々と神霊との交渉の分析を通して、慣習的な宗教祭祀と近代法制度の再帰的な関係を明らかにした。さらに、一般には調査の困難な経済特区での現地調査を通して、大規模開発の進展と反開発運動の勃興に伴う神霊祭祀の新たな役割と、企業幹部を祭主として経済特区の内部で興隆している神霊祭祀の新たな展開を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、最終年度である2017年度に研究成果をまとめ、単著として刊行することを予定していた。しかし、2008年にカルナータカ州での調査を開始して以降、当初の予想以上に多くの資料が蓄積されてきたこと、また、本年度までに行った数多くの研究発表や論文執筆に基づき、単著を構成するに足るデータと理論的展望が得られたことによって、予定よりも一年ほど早く、研究成果である単著を刊行することができた。以上から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトの最終年度である2017年度は、カルナータカ州沿岸部の村落部で、神霊祭祀に関する補足調査を行いつつ、すでに日本語で刊行した単著の英訳を進める。また同時に、新たなプロジェクトの予備調査として、カルナータカ州における環境運動の拠点となっている西ガーツ山脈での調査を実施する。具体的には、8月と2月の二回、カルナータカ州を訪れ、マンガルール近郊の村落部での調査を実施するとともに、西ガーツ山脈での予備調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、著書の執筆と修正に専念する必要があり、8月に予定していた現地調査に赴くことができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画としては、主に2017年度の8月と2月に予定している現地調査、ならびに英文校閲費として使用する予定である。
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