本研究は、わが国の河川流域における漁撈活動を中心とした住民の生業複合とその変容について明らかにすることを目的とした。具体的には、四万十川と筑後川の両河川流域における漁家の生業活動と自然環境とのかかわり、およびその変化について、漁撈活動を中心に考察した。 最終年度にあたる平成29年度は、引き続き、四万十川および筑後川流域の漁家を対象に漁撈活動の実態や変化、これらに関する環境認識について聞き取り調査を実施するとともに、その成果の一部を高知県四万十市の公立小学校において、小学生と地元住民向けに発表・講演した。 本研究の調査において、四万十川流域では、伝統的な漁撈活動が現在でも残り、とりわけ、下流の汽水域では、その特徴的な自然環境に基づく民俗的知識の体系と環境認識がみられた。しかし、その一方で、四万十川の観光化やFRP船の導入によって、これまで漁撈に従事したことのない者が新たに参入するようになり、旧来の慣習が崩れたり、魚族資源の枯渇が危惧されるようになった。さらに、河口の港湾整備によって、地形が改変され、下流域の潮汐変動や汽水域の空間的範囲が大きく変化し、漁民たちの有する民俗的知識に影響を及ぼしていた。 一方、筑後川流域では、生活・工業・農業用水の確保のためダムや堰の建設が相次ぎ、河川の環境・生態系が大きく変わるとともに、淡水魚の需要の減少も相まって、生業としての漁撈活動は衰退し、むしろ、養殖・放流などの魚族資源の保護へと移行していた。ただし、上流の夜明けダム付近では、ダムの放水時期や水位変動をみながら漁を行うなど、ある意味人工的な河川環境の中での新たな民俗的知識や環境認識が生まれていることが明らかとなった。
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