研究課題/領域番号 |
26370954
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
伊藤 眞 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (60183175)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インドネシア / 慣習文化 / 宗教 / 芸能・芸術 / スラウェシ / 世界記憶遺産 / 『ラ・ガリゴ』叙事詩 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本年度は、2015年8月30-9月22日(24日間)インドネシア、及び2015年11月15-24日(10日間)アメリカの計2回出張をおこなった。インドネシアの東ジャワでは、スラバヤ及びシドアルジョ県における高齢者を中心とする古典芸能活動に注目し、そうした活動がどのように世代継承されるかという問題意識から調査をおこなった。一方、南スラウェシ州では、若い世代による『ラガリゴ叙事詩』の演劇化や小説化が試みられていることに注目し、その当事者から聞き取り調査を行うとともに、ハサヌディン大学文化科学部ディアス上級講師(歴史人類学)、スリアディ上級講師からも、最近の若い世代の文化活動について情報を得た。また、ラガリゴ研究の第一人者であるヌルハヤティ教授の授業に参加し、地域文学専攻における授業を観察するとともに、授業教材の収集もおこなった。さらに、南スラウェシにおける伝統宗教の中心の一つであるシドラップ県の伝統宗教コミュニティとそのトロタン信仰について情報をえるとともに、最近の刊行物、新聞記事等を収集した。 まとめて言えば、伝統芸能の継承に関して言えば、マカッサル(南スラウェシ州)の場合、個人中心であり、高齢者クラブなどの団体が中心となっているスラバヤ、シドアルジョ県とは、対照的であった。 なお、アメリカ出張では、コロラド州デンバーで開催されたアメリカ人類学協会第114回研究大会に参加し、とくにインドネシア研究者と情報交換する場をもつことができた。オハイオ大学がアメリカにおける東南アジア研究の中心であり、とくに言語文化分野に重点を置いていることを知ったことも非常に有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記した研究目的はほぼ達成されている。 (1)『ラ・ガリゴ』叙事詩と親近性の高いシドラップ県に関する最近までの調査報告資料を収集し、同県出身者と面接し予備的調査を実施した。その結果、『ラ・ガリゴ』を信奉する「ヒンドゥー・トロタン」と呼ばれる人々は、一カ村に集中するものでなく、県内の複数村に分布すること、さらに、『ラ・ガリゴ』についての知識は、文書としてではなく、口承として受け継がれていることが判明した。 (2)『ラ・ガリゴ』叙事詩のデジタル化は、ライデン大学図書館所蔵のNBB188に該当する12巻について第3巻までを終了した。ただし、その間、所蔵元のライデン大学で原本のデジタル化が進められているとの情報を得たので、その進行状況に関する情報を待って、こちらの作業を継続するか否かの判断をすることとした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)『ラ・ガリゴ』叙事詩と親近性の高いシドラップ県において臨地調査を進める予定である。とくに、シドラップ県のトロタン信仰の人々が有する『ラガリゴ』叙事詩に関する口承的知識と、ブギス文字による『ラガリゴ』叙事詩の文書的知識とを比較検討することを重視する。 (2)文化資源としての『ラガリゴ』叙事詩という観点から、地方文化、イスラーム教育、観光、さらに演劇・文学などの側面から多角的にとらえるための作業をおこなう。 (3)『ラ・ガリゴ』叙事詩の書写本については、オランダ人文献学者ケルンを筆頭にこれまで目録化が数回試みられているが、現在では、一部は散逸、破損、あるいはマイクロフィルム化されたものの劣化等により、判読しがたいものもあると考えられる。現在の保存状況について、国立文書館マカッサル支部が所蔵する書写本について調査する。
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