研究課題/領域番号 |
26370957
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
李 鎭榮 名桜大学, 国際学部, 教授 (30269170)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 華僑社会 / 韓国の華僑対韓国華僑 / 学友のネットワーク / 社団の立て直し / 華僑中学校 / 同窓会 / 関係ある他者 / フール・メンバーシップ |
研究実績の概要 |
課題研究を進める中で、現行の韓国の華僑社会の立て直しの方向性は、意思決定に影響力の強い一部の裕福な勝ち組みの方向性であって、経済的な余裕のない中流以下の華僑たちには相当の戸惑いが見られることがわかった。この点は調査を深めていく夏の調査で明らかになったわけであるが、小生の聞き落としでもあった。これは韓国人研究者に対する華僑たちの警戒心の現れの一例ともいえるものであって、外部の研究者に華僑間の軋轢を隠匿しようとするためでもあった。 これは夏に開かれたある会合に参加し偶然知り得た情報であるが、その後の短期調査により、華僑社会の立て直しの方向性が必ずしも一枚岩ではないことは明らかであった。華僑社会の大半を占める中流層以下は現在の華僑社会のリーダーたちが推し進める華僑学校の国際化に伴う急激な学費の増額についていけず、仕方なく今までどうしても避けたかった韓国社会に帰化し、廉価な韓国の義務教育を受ける道を選択している。 このように、華僑社会立て直しが進むことにより、実は華僑社会の弱体化を招く結果につながっていることが広範囲に観察できた。 しかし、このような事態に直面して帰化組を華僑社会から排除するのではなく、華僑の定義を柔軟に捉え直すことにより華僑社会の崩壊の危機を乗り越えようとしていることが明らかとなった。 一方、海外に移住した元韓国華僑も相当数が戻りつつあるが、現在の華僑社会の立て直しの方向性には反対する人が殆どで、「独特な同窓会意識」で華僑社会の枠組みを乗り越えた「関係」構築を模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は終盤に入り、大部分の韓国華僑たちの出身地である中国山東省に移住している元韓国の華僑たちのインタビュー調査が、韓国のサードミサイル配備に伴う中国政府の反発により、中国現地調査が難しくなったのが原因の一つである。
中国政府の韓国人観光客に対するビザ発給の停止措置により、現地調査を延期せざるを得なかった。
また、調査中明らかとなった、華僑社会内部の意見が必ずしも一枚岩ではなく、裕福なリーダーたちによる華僑社会立て直しの方向性に、多くの華僑たちがついていけず、むしろ華僑社会を離れる結果となっている事実もあるようなので、影響力のある裕福な勝ち組みのみならず、庶民層の意識調査をよりしっかり行う必要があり、軌道修正に若干時間がかかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
華僑社会の立て直しの方向性が必ずしも一枚岩ではなく、経済的に余裕のない中間層以下の華僑は現在の華僑学校の国際化(国際学校認定獲得による学費の急激な高騰)により、子女を華僑学校に通わせることができなくなっている現実も明らかとなった。このような動きについては、前回の調査で初めて気づいたわけであるが、華僑学校の教育の質の向上の課題については、親の世代の人間関係のこじれが解決できないまま 推進することになるので、もはや華僑内部ではほとんど身動きが取れない状態であることがわかった。華僑社会の立て直しは、華僑は今まで敬遠していた韓国人の力を借りずには不可能に見える。現在、華僑の小学校・中学校には多くの韓国人学生をが通っており、華僑社会の立て直しには韓国人の意見を取り入れざるを得ない状況にいることが明らかと思われる。今後はこのような観点からの調査を進め、学会発表をしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は国際情勢の政治的な影響を受け、韓国の華僑の出身地である山東省でのインタビュー調査が実施できなかった。さらに、調査中明らかとなった、リーダー格の華僑たちの改革路線が経済的な余裕のない華僑たちの生活を圧迫する形となっている現実が露呈したので、調査対象者を含む若干の軌道修正が必要であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
在韓米軍のサードミサイル配置問題により中国現地での調査ができなかった分を今年は夏休みまでに実施し、アメリカ・台湾に移住した元韓国の華僑たちの同窓会ネットワークの実体を調査したい。
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