本研究は、スペイン・ガリシアで主に農牧業が中心的に営まれている地域を対象に、2011年に始められた祭り(Son d’Aldea)に着目し、農村共同体内部の多元的な社会関係や実践を明らかにすることを目的としている。 平成28年度には”Son d’Aldea”のエスノグラフィー作成に向けて、主に現地調査(6~7月、9月)を行った。6~7月には、主催者の一人であるエコ・チーズ業者が拠点とするアルバ村(Santiago de Alba)に住み込み、祭りの準備を追うと同時に、村の生活に関する参与観察を行った。準備については、祭りのメインと考えられる劇に関わる役者やガイドの練習あるいは彼らの打ち合わせなどを観察し、また、裏方的な役割を担う近隣組織の仕事(草刈り、会場の設置と片付けなど)を手伝いながら聞き取り調査を行った。本研究開始前から通算して5回の祭り参加を基に、祭りを通した農村共同体の現状と住民および関係者が抱く理想を捉えることができた。 本研究の成果の一つとして、学界のみならず、一般にも開かれたシンポジウム「衰退する農村地域の再編を考える―新たな農村文化創造の日欧比較」(平成28年11月26日@早稲田大学)を企画・開催した。そこでは本研究が目指す文化人類学あるいはヨーロッパ人類学の視点に止まらず、農村社会学、環境建築学、環境経済学、地球環境学を専門とする研究者をパネリスト/コメンテーターとして招き、多角的でグローバルに農村の現状と未来を議論した。また、学界のみならず、農業実践者も含めた実践的な議論も展開された。このシンポジウムにおいて報告者は、これまでのフィールドワークの成果を、特に、共同体の内部と外部の担い手から構成される祭りの構造と、それぞれの関わり方や思惑が基になった対象地域の実態を明らかにした。これについては、現在、投稿論文として執筆作業中である。
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