研究課題/領域番号 |
26370966
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
川田 牧人 成城大学, 文芸学部, 教授 (30260110)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文化人類学 / フィリピン / 宗教実践 / コミュニティ / 聖具 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、フィリピン・ビサヤ民俗社会におけるカトリック聖具の消費に焦点をあて、モノを通した宗教生活、とりわけ可視性・可触性を特徴とする宗教実践がコミュニティの再編や活性化の源泉となる側面についての記述を通して、宗教実践と社会生成の関係性を文化人類学的に考察することである。このため、当初、以下の三つの研究内容を設定した。(1)聖具消費を通したコミュニティの構造化、(2)聖具を用いた地域シンボルの生成、メディア表象、観光資源化など、(3)同じ聖具を用いた地域間コミュニティ創造の比較研究。 今年度も当初調査予定地として想定していたアクラン州カリボでの現地調査が困難であったため、調査地をセブ市に集中して(1)(2)の調査を実施した。今年度はとくに、昨年度開始した文字を通した聖具への祈祷とともに、バジリカ周辺でのロウソク奉献祈祷(Tinderaによる宗教実践)に焦点をあて、声を通した祈祷についての調査研究をおこなった。彼女たちはロウソクを販売すると同時にクライアントの祈願内容を詠唱しながらステップを踏む舞踊祈祷をおこなう。それによりサントニーニョ信心行のコミュニティを形成している。と同時に、セブ市の一大観光地における観光資源を供給しているという観点もなりたつ。 なお(3)の地域間コミュニティ創造の比較については、同じ聖人であるサントニーニョの聖像祭祀で有名なチェコ共和国プラハの勝利の聖母教会において参与観察調査をおこなった。教会周辺の土産物ショップに関してはセブ市に近い広がりをみせるが、販売所が同時に聖像の補修や製作にあたるケースを見いだすことはできなかった。 以上の調査研究の途中経過をクロアチア共和国ドブロブニクで開催されたIUAES(国際人類学民族学科学連合)において、中間発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は渡航計画をすべて完遂することができず、したがって一回分の渡航費用の使用を期間延長して次年度に使用せざるを得なかった。具体的には、当初予定に入れることができなかった所属学会での総務会理事業務が相当程度生じ、合わせて、他にも参加する共同研究などが重なったため、申請時に予定していた海外調査をはじめとする活動に時間をじゅうぶんに割くことが困難となった。このため、海外渡航を要する現地調査や学会出張などの予算を延長し、次年度の調査研究にあてるよう、部分的に研究計画を修正する必要が生じた。このためすべての研究が完了したわけではないので、やや遅れていると評価せざるをえない。 次年度に延長すべき研究内容としては、今年度より開始したサントニーニョ・バジリカ周辺でのロウソク奉献祈祷(Tinderaによる宗教実践)を中心とした唱え言(声を通した祈祷)の採集調査、彼らの祈祷活動によるシンボル生成や観光化の側面の資料化などである。これらを通して、最終的には、モノ=聖像を中心とした宗教コミュニティが、唱え言や祈祷実践といった可視的な活動を通して再編、活性化される側面をとらえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度への延長申請が認められたので、最後一回分のセブ市の短期調査を実施する。この現地調査では、すでに着手している「声を通した祈祷実践」についてデータ収集を継続する。具体的には、サントニーニョ・バジリカ周辺でのロウソク奉献祈祷(Tinderaによる宗教実践)を中心とした唱え言(声を通した祈祷)の採集調査、彼らの祈祷活動によるシンボル生成や観光化の側面の資料化などである。 この調査をふまえ、最終年度としてのとりまとめをおこなう。本研究を通して、可触性をもった祈祷対象である聖像が宗教コミュニティをいかに創造するか、とりわけ文字および声の両面を通して信奉者がじっさいに聖像=モノとの関係性をいかに生じさせるについて、その様態が明らかになりつつあるので、この宗教コミュニティにかかわる人々の活動をコト(聖具=モノを通した宗教実践とコミュニティの関係性が出来事化すること)とコトバ(聖具=モノを通した宗教実践とコミュニティの関係性を言語化すること)といった側面に着目し、モノ・コト・コトバの関係性を理論的に考察する、といった展開を想定している。 そして、当初の研究目的(3)コミュニティ創造に関する地域間比較に関して、その深化をめざしたい。本研究と関連する前科研費調査ではメキシコシティにおけるグアダルーペの聖母、そして本科研ではプラハのサントニーニョというキリスト教圏における比較が実現できた。今後、それを非キリスト教圏のとくに日本における民俗信仰との比較の視座へと展開させ次の新たな研究構想へとつなげていきたい。そのためには、モノ・コト・コトバの理論的枠組を拡充させる必要があるが、本研究の最終局面において、その足がかりを得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、期せずして所属学会(日本文化人類学会)の総務会理事(庶務担当)に選出されてしまい、その業務が相当程度あったため、申請時に予定していた当該研究に充てる時間を割く必要があった。合わせて、他にも参加する共同研究などが重なったため、出張期間を確保することが困難となった。このため、海外渡航を要する現地調査約1回分の予算を使い残してしまった。このため、海外渡航を要する現地調査や学会出張などの予算を延長し、次年度の調査研究にあてるよう、延長申請をおこなった。
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次年度使用額の使用計画 |
延長申請が認められたので、次年度の海外調査や学会出張など、最終年度のとりまとめの部分が完遂できるように予算を使用する。とりわけ現地調査にあっては、すでに着手しているサントニーニョ・バジリカ周辺でのロウソク奉献祈祷(Tinderaによる宗教実践)を中心とした唱え言(声を通した祈祷)の採集調査、彼らの祈祷活動によるシンボル生成や観光化の側面の資料化などを実施し、最終的には、モノ=聖像を中心とした宗教コミュニティが、唱え言や祈祷実践といった可視的な活動を通して再編、活性化される側面を総括する。
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