研究課題/領域番号 |
26370967
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
後藤 明 南山大学, 人文学部, 教授 (40205589)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 天文学 / ネオサイエンス / プラネタリウム / 航海術 / 景観論 / 方位観 / 自然認識 |
研究実績の概要 |
本研究では研究代表者は天文民俗の人類学的な再検討を目標に、沖縄本島、山口県下松市および岡山県美星町、台湾のアミ族、ハワイなどに調査旅行を敢行し、島嶼部・海岸部において方位確認、天候予測や季節告知のために太陽や星辰がどのように利用されてきたかを探った。また上記の地域におけるグスクや古墳のような遺跡、また御嶽(沖縄)や神社仏閣のような宗教施設において天体に関する信仰がどのように伝承、記録あるいは物証化されているかを調査してきた。 それらの成果を含めて26年11月には南山大学にて「星空人類学2014」を挙行、人類学的プラネタリウム番組の試作品を一般社会に向け実施し、好評を得た。なおプラネタリウムは研究協力者の協力をえて五藤光学研究所から借用した。 26年7月、南アフリカケープタウンの南アフリカ天文台において行われた国際考古天文学・考古民族学(通称 Oxford 10)に参加して琉球列島の王権と太陽信仰の関係について発表した。さらに12月台湾の台東で行われた太平洋誌会議において、研究代表者らが関わった沖縄海洋博公園内海洋文化館のリニューアル展示における、スターナビゲーションについて発表し、また同館付設のプラネタリウムにおいて研究代表者らが監修した「星に導かれて」という天文人類学的プログラムを国際発信した。 天文の人類学的研究に関しては文化人類学の学会誌『文化人類学』、『東南アジア考古学』、『南方文化』、『南山考人』などに関連論文を投稿してきた。またケープタウン学会での発表は現在英文論文として投稿済み、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
26年度は研究代表者は国内の天文民俗の調査を沖縄本島南東部、および瀬戸内地方(山口県下松市、岡山県美星町)にて行った。さらに海外では台湾の先住民およびハワイのポリネシア系の天文民俗について実地調査や文献調査を行うことができた。また研究協力者の角南は沖縄八重山諸島における星見石など天文関係文化財の調査を行った。さらに研究協力者全員(角南、大西、石村)および研究代表者は国内の学会で景観論に関して学術発表を行い、従来の景観論に天文現象を加えることの可能性についてさまざまな事例から検討を行った。 とくに研究代表者は26年度の調査や文献研究の成果を4本の日本語論文にして発表した。さらに研究で得た知見の社会的アウトリーチを目指して、五藤光学研究所から借用した移動式プラネタリウムを用いて一般社会へ公表を行った。プラネタリウム上映は27年度と28年度に行う予定であったが、研究進展の度合いが良好だったため一年前倒しして26年度に行うことができた。27年度も引き続きその改良版のプログラムを社会に公表する予定である。 以上の実績によって人類学的な知に基づいてプラネタリウム番組を制作し実施するという当初の目的はプラネタリウム上映を前倒しでするなど計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
人類は天文学的知識、あるいは空に関する知識一般(スカイロア)を漁業や農業といった実践的な中で利用してきたが、その情報は現代においてはきわめて断片的になっている。しかし神話や伝承、具体的には神社の起源伝承や信仰内容(例 航海安全)にそれが変容しながらも読み取れる事例が少なくない。そのために天体に関する伝承や実践的知識の集積だけではなく、たとえば降星伝承に伴う神社のように、地上の歴史的現象を空の現象で説明するような慣習も研究対象としたい。 (1)日本における天体に関する観察知識の実践的な使用(例 航海、季節推定、天候予測など)の情報収集;(2)オーストロネシア世界(東南アジア島嶼部およびオセアニア)の情報収集;(3)西日本を中心に星座信仰および海洋信仰に関係する神社や仏閣、海岸部の古墳などを踏査し、その構造や配置と特定の方位との関連性を探る。同時にその施設に関連する起源伝承、信仰内容等を調べる。27年度は愛媛県(今治の村上水軍博物館、新居浜の降星伝承のある神社、等)、広島県(航海に関係するといわれる市内の白神社、等)、宮崎県(宮崎市、日向市の海洋信仰関係の神社)、愛知県(名古屋市の星神社や海部郡の神社、等)および関東(日蓮上人と金星との関連が伝わる神奈川県宗教施設)等を予定している。 27年度はその成果が認められ国立天文台にて「天文学と人類学の融合」という学際的シンポジウムをコーディネーターの一人として企画に協力している。また27年8月ハワイで開催されるIAU (International Astronomical Union)に連動する企画で、ハワイ島ヒロにあるイミロア天文センターにて、地元住民に日本の天文民俗に関する講演を行う予定である。このような知見をもとに27年度もより改良型の人類学的プラネタリウム・プログラムを作成し社会に還元していきたい。
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