本研究は中華人民共和国の壮族の新しい書き言葉である現代壮文の普及が全く進まない要因を、国家の言語政策のみに帰するのではなく、フィールドワークと聞き書きによって壮族の人々が文字に対してどのような観念を抱いていたかを明らかにすることを通じて、考察しようとしたものである。考察の概略は以下の通りである。 壮族の農村社会では、行政文書や系譜(家譜)を記述する漢字と、壮族のうたを記述する方塊字(漢字系民族文字)を併用してきたが、その使用範囲は明確に区別されてきた。場面を問わずに使用することができ、かつその表記体系としてアルファベット表記文字を採用した現代壮文を、壮族の人々は受け入れることができなかった。
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