研究課題/領域番号 |
26370970
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
大西 秀之 同志社女子大学, 現代社会学部, 准教授 (60414033)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 景観 / 文化財 / 世界遺産 / 環境認識 / 史跡 / 国立公園 / 北海道 / 奄美 |
研究実績の概要 |
今年度は、まず北海道東部に位置する標津町の「茶志骨」・「伊茶仁」・「川北」の三地域において、地域住民の方々に聞き取り調査を実施することができた。この調査では、まず住民の方々が自らが暮らす地の自然・歴史・文化に対して、どのような知識や認識あるいは価値づけを保持しているか把握することができた。その上で、隣接する世界自然遺産となった知床半島や同地におけるアイヌの人々の文化・歴史に対する意識を問うとともに、その結節点となるポー川自然史跡公園そのものや同公園での企画・取り組みなどに対する意見なども収集することができた。 いっぽう、奄美群島では、行政機関やNPOなどに従事する関係者の方々に対しインタビューを行い、世界遺産登録の取り組みが進むなかで当該地域の住民の方々が現在どのような意見を持っているのか、またそれに対して各団体がどのような対応を取っているかなどの情報収集に努めた。くわえて、この調査では、トップダウン的に要請される世界遺産申請のための条件や価値づけに対する、行政から民間までの現地の各種団体の対応を把握することができた。 以上のような現地調査を基に、本年度は、次のような研究成果を公開・提示することができた。まず景観人類学をテーマにした一般書に、奄美群島におけるUNESCO世界遺産申請運動にまつわるポリティックスと、それに対する現地からのオルタナティブな価値形成としての「奄美遺産」運動の取り組みの可能性を提起した。また先住民のパブリックアーケオロジーをテーマとした国際シンポジウムにおいて、アイヌの人々の歴史や文化がエスニシティを超えて地域住民共有の文化資源となる可能性を秘めていることを、標津町のポー川自然史跡公園を中核とした各種の取り組みを事例として提起した。さらに標津町では、地域住民の方々を対象としたワークショップを開催し、調査成果の現地社会への還元を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、北海道東部の根室郡標津町において本研究の申請時に計画していた現地調査を実施することができた。とりわけ、標津町内での立地や居住世帯の生計手段の違いなどが異なる「茶志骨」・「伊茶仁」・「川北」の3地区において、合計27名の現地住民の方々に自然・文化・歴史にかかわる環境/景観認識の聞き取りを行い、昨年度までに収集した奄美群島における調査成果と比較できるデータを得ることができた。くわえて、次年度に同町内の残りの2地区とともに、北方四島からの帰還者の方々にも聞き取り調査を行うことが先方の申し出により実現した。 さらに本年度は、当初の計画よりも早く現地でワークショップを開催し、調査に御協力いただいた地域住民の方々に成果を公開することができた。またこうしたワークショップは、調査の社会還元という意義のみならず、過去に奄美群島でも行っているため、今後両地域の比較や交流の可能性を担保できる、という意味でも貴重な企画であったと評価している。 いっぽう、奄美群島では、現地住民の聞き取りに基づく十分なデータが取集できているため、本年度は行政やNPOなどの取り組みに関する情報を担当者に面談し伺うことに集中した。またその結果、次年度には、複数のNPO団体の取り組みに実際に参加し調査することが計画できた。 以上のように、本年度は、北海道でも奄美群島でも申請時に計画した調査をほぼ予定通り実施しデータを収集することができた。このため、最終年度となる次年度には、過去二年の調査を踏まえ不足部分のフォローアップを行えば、一定の研究成果を収めることができる見通しを得たと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、最終年度となるため、これまでの調査成果のまとめに向け、既存のデータの統合を目指した調査を実施する。とくに、北海道と奄美群島のデータの比較が可能となるような調査を意識的・集中的に実施する。 具体的には、北海道の標津町では残りの2地域と北方4島の旧住民に対する聞き取り調査を実施する。これによって、当該地域の住民の方々の自然・歴史・文化に対する意識の傾向や差異を把握するとともに、その結節点としてポー川自然史跡公園を中心とする文化的景観が果たしうる役割・可能性を追究する。この調査を実施すれば、質的にはいうまでもなく、量的にも奄美群島の既存の調査成果と対比しうるデータが得られることが期待できる。この調査に加え、標津では今年度もポー川自然史跡公園で開催される、アイヌ系住民の方々による「イチャルパ(鎮魂祭)」に参加し、そこでアイヌ系のエスニシティを保持する住民と日本社会におけるマジョリティ系住民がどのような交流を形成しているか検討を試みる。 いっぽう、奄美群島では、既に地域住民に対する聞き取り調査に基づく一定の質的・量的データが収集できているため、北海道側との比較を行うためのデータ収集を実施する。具体的には、エコツーリズムなどを行っているNPOや民間団体の企画に参加し、そこで当該地域の自然・歴史・文化の集積としての景観がどのように活用されているか把握を試みる。また奄美群島でも、調査成果の現地住民の方々への社会還元を目的としたワークショップを実施する。この試みによって、北海道と奄美群島の両地域における調査成果の社会還元が実現することとなり、同時にその比較も可能となる。 以上に加え、最終年度のまとめとして、これまでの二地域での聞き取り調査の結果に基づくデータベースを構築する。さらには、このデータベースを現地に還元し、当該地域の文化資源が如何に活用できるか検討を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、次年度使用額に変更が生じた原因は、本年度の計画に支障があったためではなく、ひとえに初年度に計画していた奄美側の研究協力者を京都や北海道に招聘しての研究会合や共同調査が実施できなかったためである。また本年度になっても、これらが実施できていない理由は、まったく予期しえなかった御本人の健康にかかわる避けられない事情よるものである。したがって、たとえば場所を変更し代表者や北海道側の研究協力者が奄美に赴いたとしても、目的そのものが果たすことができないため、二年連続で実施を見合わせざる得なかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、奄美側の研究協力者の御体調の回復が期待できるため、延期していた奄美での研究会合や共同調査を実施できる見込みである。またどうしても困難な場合は、代替案として、申請時の研究協力者に近い立場で目的を引き継ぐことができる、奄美在住の他の研究者の方に代わりの役割を担っていただくことも計画している。なお、代理をお願いする現地研究者の方には、もし依頼をする状況になった場合は御承諾いただけるとの内諾を既に得ており、その開催の日程に関しても10月を目途に調整済みである。
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