本年度は、まず北海道標津町の2集落(古多糠・薫別)と千島歯舞諸島居住者連盟標津支部を対象として計12名の方々に聞き取り調査を実施した。この結果、同町では、過去3年間で5集落と一団体の合計45名の地域住民の方々が有する景観にかかわる認識・知識を収集することができた。また昨年度に引き続き、本年度も、学会報告やシンポジウムなどで報告に加え、標津町で地域住民の方々を対象としたワークショップを開催し地域社会への成果還元と意見交換を行った。これらの諸活動は、現地の新聞メディアに取り上げていただいたため地域社会に広く周知することができた。 いっぽう、鹿児島県の奄美群島でも、長年調査を行ってきた加計呂麻島で、地域住民方々を対象としたワークショップを開催した。このワークショップは、鹿児島大学・奄美分室との共催であったため学術的に意義のあるものとなったが、それ以上に現地で景観保全活動や文化財活用を行われておられる方々と意見交換を行うことができた。なお奄美群島では、大島北部の2地区(秋名・赤木名)と加計呂麻島において、現在までそれぞれ40名以上と60名以上の地域住民の方々に聞き取り調査を行い貴重なデータを収集することができた。これらの成果は、今後さまざな媒体や手段で随時公開してゆく予定であるが、本年度は景観人類学をテーマとした一般学術書に成果論文を掲載した。また奄美群島でも、現地の新聞メディアに取り上げていただいたため幅広く活動を周知することができた。 以上のように、本年度を含め過去3年間で当初に計画した内容をほぼ実施することができ、上記のような研究成果を提起した。これらの成果は、景観を地域共有の文化資源として位置づけ、地域住民が主体となる保全・活用のあり方を追究するための、有効な視座を含むケーススタディとして一定の貢献を果たしうると評価している。
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