1980年代後半以降、日本各地に波及した伝統野菜復興のムーブメントを対象にその実践事例と地域振興の関わりを探求し、同ムーブメントの現代的意義を求めるべく研究期間全体を通じてフィールドワークとデータベース作成を遂行してきた。2016年度はデータベース作成の継続と平行してこれまでの研究成果の一部を先行的に本科研ホームページ上で公表した(題目「伝統野菜ムーブメントの拡がり」、「伝統野菜とはなにか?―定義をめぐる若干の省察」、「伝統野菜認定の基準と「時間」に関するメモ」の3本である(いずれも2017年2月掲載))。 伝統野菜はポスト生産主義下(1990年代以降)における農産物の新規付加価値創造という地域振興の要の一つであることは周知のことであるが、本研究のフィールドワークを通じてもたらされた新たな知見は次の三点に要約できる。第一に野菜とひとの生きるカタチの多様性(作物生産における非匿名的なひとのつながり=社会的ネットワーク生成の側面)、第二に「種子を継いでいく営為」が紡ぎ出すローカリティの水準、第三にムーブメントが潜在的に有しうる新たなローカリティ生成に対する賦活作用である。ある種表層的なコモディティ化の深部において、ローカリティの持続的生成に果たしうる復興ムーブメントの力はこれまで議論されておらず、その意味でも本研究の成果は今後の広義の伝統野菜研究に向けたひとつの貢献を果たすことができたと考えている。なお上記研究成果は論文「伝統野菜と紡がれるローカリティ―「伝統野菜のエスノグラフィーのためのメモランダム」(『ストリート人類学』、風響社)および「伝統野菜のエスノグラフィー」(「茨城キリスト教大学学術研究センターシリーズ」)として公表する(いずれも2017年度刊行)。
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