研究計画の最終年度である本年度は、昨年度までに蒐集した史料の整理・分析・検討作業を行うとともに、可能な限り新史料の調査・蒐集を継続して進めた。本年度新たに蒐集することができた史料は、マイクロフィルムからの印画約1750コマ、電子複写約250枚等にのぼり、そのほか江戸時代の写本類(一部明治初年のものも含む)24点を購入した。これらの史料の整理・分析を通じて得られた主な成果として、以下のものがある。まず江戸幕府法に関しては、第一に、これまで必ずしも実態が明らかではなかった初期評定所の裁判制度及びその運用の一端を知り得る、万治年間の訴訟記録を見出した。第二に、大半が失われて伝わらない幕府の司法統計に関する断片的史料を新たに複数見出し、そのうち評定所公事訴訟の統計作成・報告の実務に関する史料を中心とする論考をまとめた。第三に、大坂町奉行所における公事出入の開始から終結に至る経過をよく窺うことができる大坂町方の史料を見出し、その一部について釈文を作成した。また藩法に関しては、第一に、これまで少数の写本しか存在が確認されていない名古屋藩の「盗賊御仕置御定」・「軽科御定」・「博奕賭之諸勝負いたし候者御仕置御定」・「盗賊博奕之外御定」等の写本を見出し、同藩刑法法源の流布状況等について新知見を得た。第二に、これも従来数点しか伝本の存在が報告されていない仙台藩「評定所格式帳」の写本を新たに見出し、これがもっとも原型に近いものである可能性があることから、その立法史的意義を考察する手掛かりを得た。第三に、裁判制度そのものではないが、それと密接に関連する刑政にかかわるものとして、やはり伝存するものがきわめて少ない明治初年の広島藩「徒刑場規則」の写本を新たに見出し、維新期の同藩徒刑制度の運用について新知見を得た。
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