研究課題/領域番号 |
26380006
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大屋 雄裕 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (00292813)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 立法学 / 功利主義 / 自律的個人 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、特に情報化社会において発達しつつある監視技術の問題に注目し、それが果たす機能が逸脱行為への制裁という事後的なものから、行為前にその可能性自体を消去するという事前的なものへと変化してきていること、それ自体はむしろ各個人の幸福を意図して導入されているものだが、個人の自己決定と自律性という、近代社会の基礎となっている要素を傷付ける側面があることを指摘してきた。 このような問題意識から、社会的統制手段の典型の一つである法について、他の統制手段との比較問題に重点を置いた研究を継続した。また、監視・記録技術とプライバシーへの懸念について、前者に関する技術的調査を進めるとともに、特にプライバシー概念の再検討・整理を通じた理論的再検討を試みた。 自律的な個人を基礎とする法に対抗する統治原理の有力な候補である功利主義については、その性質と発展の系譜を整理する作業を行ない、比較の基礎を構築することを試みた。一方、法については民主的な立法過程の性格とその直面している問題について検討し、立法学研究の一環として成果を公表した。立法プロセスに関する民主的統制の中心的理念と考えられる立憲主義についても、社会的重要性を帯びてきた点も含めて検討を進め、複数の論考において成果を公表した。我が国における法解釈と法システム利用の特徴について、他国との比較を念頭に解説する英語論文についても公刊している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属大学を変更したこともあり、附随する移転作業等に相当の労力を必要とした一方、これまでの成果のとりまとめ・刊行は順調に進展している。認知科学・複雑系科学など他の分野の知見を参照しつつ法という統制手段の特徴を位置付ける作業の進展が成果発表と比較するとやや出遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
人工知能(AI)の発展と対比される形で人間の知性や自律性の特徴を検討する作業について、急速な技術進歩によってその社会意義が増したこともあり、力点を置いて取り組みたいと考えている。その際、「理性的に決断する個人」というモデルは最早採用しがたいという認知科学の主張、技術進化によって複雑なものを複雑なままに扱えるようにあったのであれば近代社会のような単純化を行なうべきではないとする複雑系科学からの主張の調査・検討を重視する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年10月に前職(名古屋大学)から現職(慶應義塾大学)に移籍したため、研究室の移転等にかなりの労力を要し、研究時間にも一定の制約が生じた。また、移籍に伴う研究費の移管手続きに一定の期間を要した。このため、この間は研究費の執行を伴う作業を避け、成果発表の準備やそれに伴う文献調査を主に遂行していた。
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次年度使用額の使用計画 |
移籍前後の期間に、備品の移動・移管に伴う手続き負担を考慮したこともあってコンピュータ・記録装置等の機器の更新を差し控えていた。全体的にやや経年化・老朽化が進行しているため、これらの更新を優先的に実施し、研究が効率よく遂行できる体制を整えるために試用する計画である。
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