昨年度までの成果をふまえ、実定法の分析への応用を更に進めたことかが本年度の重要な成果である。特にこの作業に関して昨年度来研究協力を行ってきた研究者との共著書が刊行されたことは最終年度の特筆すべき成果として挙げられよう。なお、具体的な研究内容の進展については、(1)昨年度までに検討したように、方法論的個人主義の棄却に関しては、そこで示唆されたように更に進んで「社会科学の哲学」との関係に於いて研究を進めた。(2)既に昨年度までに行為当為と事態当為の区別に依拠しつつ、法の当為性について分類的整理を行い、命令説を始めとする古典的法モデルを分類する作業が進められたが、本年度はさらなる実定法への応用として、租税法(的)規範と刑法(的)規範の概念的関係についての解明が行われた。その成果の一部が論文として公表されている。(3)昨年度に明らかになった研究課題としてのフィクション論の取り組みが進展した。具体的には、法的言明の中でも事実認定を取り扱う言明が、記述的でありながら認知的反駁を受けないという特殊な性格を持ちながら、にもかかわらず国家権力の発動の正統性の基盤として用いられることによって、現実に「錨をおろす」ために、フィクション一般と同視し得ないことを明らかにした。これまでの作業が、メタ倫理学・メタ規範理論の法概念論への素直な応用という性格をある程度有していたのに対し、本年度の進展によって法概念論固有の問題が立ち現れるに至ったといってよい。本年度はこれまでの移民や国境管理の問題なに加えて、性的倫理など普通には規範倫理学・規範的正義論に分類されるような主題について、そうした主題についての典型的な議論が前提とする方法論的想定や形而上学的コミットメントについての反省を加えることによって、、その可能性を示そうと試みた。
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