研究課題/領域番号 |
26380008
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
桜井 徹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30222003)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 民主主義 / 人権 / 国民国家 / シティズンシップ / 移民 / 入国管理権 |
研究実績の概要 |
基本的人権の根拠がますます普遍的な人間的属性に置かれるようになった一方,主権原理に基づく国家の入国管理権が自明視されている現代世界では,各々の主権国家は,「境界線を乗り越えようとする移住者をいかに処遇すべきか」という難題に直面している。人間の普遍的人格と個別的なナショナル・アイデンティティとを基礎とする2つの矛盾する倫理的要請を,現代社会はいかにして調整できるのか。 このような観点から,平成28年10月の日本学術振興会研究拠点形成事業「日欧亜におけるコミュニティの再生を目指す移住・多文化・福祉政策の研究拠点形成」キックオフ・シンポジウム及び11月の第7回神戸大学ブリュッセルオフィス シンポジウムThe Emerging Sciences and a Changing World: EU-Japan in Transitionにおいて,The Discrepancy between Citizenship and Economic Life in Contemporary Multiculturalizing Societies: What Charlie Hebdo Attacks Suggest to Usという報告を行い,移民とその家族の社会的統合には,法的に構築された市民統合プロセスだけではなく移民の若い世代に経済生活の明るい見通しを付与することこそが必要だと論じた。この報告を通じ,現代社会における共生が同じ政治共同体の市民であることのみを意味し,同一の信仰や公共道徳を共有することを意味しないという意味で人間関係が“政治化”していると同時に,現代社会がますます経済的・社会的プランを軸に組織されているという意味で“非政治化”しつつあるというパラドックスが根源的要因となっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルソーが『社会契約論』において,民主的政治共同体の統治主体たる“人民”を安定的に形成するには,その構成員集団が民主的決定過程に粛々と従う旨の“全員一致の合意”を不断に確認することが必要だと論じたことが,本研究の重要な第一歩をなしている。このことから,リベラルな民主主義国家の成員資格――シティズンシップ――の範囲をいかにして決定し,またそれをどのように安定的に維持するかが,民主的な政治的共同体の安定と発展にはきわめて重要な課題となることが明らかである。 前年度まで,移民人口の文化的・経済的・政治的プレゼンスの拡大が現代の民主主義国家に深刻な影響と難題を突き付けているという現状を,基本的な諸人権の根拠を「人間としての人格」という普遍的概念へと求めてきた近代の法・政治原理といかに折り合わせるかという課題を丹念に検討してきた。その延長線上には,“リベラルな民主主義国家は自らの成員資格をどのように画定すべきなのか”という本研究の中心的課題が横たわっている。 平成28年度はとりわけ,社会における共生が同一の信仰や公共道徳を共有することではなく,同じ政治共同体の市民であることのみを意味するようになったという点で人間関係が“政治化”していると同時に,現代社会がますます経済的・社会的プランを軸に組織されているという意味で“非政治化”しつつあるという現代社会のパラドックスに焦点を当てた。リベラルな民主主義国家が「移動の自由」という基本的人権の価値に忠実であろうとする一方で,外国人の出入国を管理する国家の権限をいかに正当化するのかという重くかつ困難な課題を解明するにあたって,現代社会における政治化と非政治化の同時進行というパラドックスを認識することは,重要な一歩となるはずである。その意味で,本研究は現在まで,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
20世紀後半以降,基本的人権の根拠がますます普遍的な人間的属性に置かれるようになった一方,主権原理に基づく国家の入国管理権が自明視されている現代世界では,各々の主権国家は,「境界線を乗り越えようとする移住者をいかに処遇すべきか」という難題に直面している。人間の普遍的人格と個別的なナショナル・アイデンティティとを基礎とする2つの矛盾する倫理的要請を,現代社会はいかにして調整できるのか。現代のEU諸国も突き付けられているこの課題に,私たちは今年度,「入国管理権をはじめとする国家の主権的権力の道徳的根拠」を厳しく問い直すことによって向き合わなければならない。 セイラ・ベンハビブが指摘したように,民主主義の正統性は常に「普遍的人権の要求と個別主義的な文化的・国民的アイデンティティとの緊張」のもとにある。それは,あらゆる自己立法の行為は――「われわれ国民」を定義する――自己構成の行為でもあるからである(『他者の権利』法政大学出版局,41-42頁)。このような観点から,平成29年9月には,マウロ・ザンボーニ ストックホルム大学教授の協力により,スウェーデンのストックホルムにおいて,「移住者にとっての境界線と人権」をテーマとする国際ワークショップを開催する予定である。このワークショップには,ザンボーニ教授と研究代表者のほか,ヴァレーリア・マルゾッコ ナポリ大学教授,フレデリック・フォン・ハルボウ ギーセン大学研究員,関根由紀神戸大学教授といった気鋭の法学研究者を集合させ,移住者が普遍主義的人権によって支援を受けると同時に,この人権原理を基盤とする民主政国家の境界線上でいかなる苦境に立たされているかを討究する。このような挑戦的議論を通じて,“リベラルな民主主義国家は自らの成員資格をどのように画定すべきなのか”という本研究の中心的課題へと切り込んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,神戸大学国際文化学研究科長および国際文化学部長を務めた関係上,予定していた海外出張および国内出張を控えざるをえなかったため,その出張費の支出が予定を大きく下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,研究図書を購入するほか,9月に予定されているストックホルム大学でのワークショップ,ポルトガル・リスボンで7月に開催される第28回IVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)世界大会等に参加し学術的意見交換を行うための海外出張に,多くの出張費を使用する予定である。
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