研究期間を1年延長し、2017年度が最終年度となった。昨年度実施できなかった追加調査を高知県内、東京都内、長崎県内で実施した。文献研究も最終段階に入り、計画した研究内容をほぼ実施することができた。 研究成果として、共著を刊行することができた(飯國芳明ほか編『土地所有権の形骸 化』 ナカニシヤ出版 2018年3月30日)。同書では、緒方賢一「土地所有権の空洞化現象としての耕作放棄」(第5章)を担当した。農地について、権利者の他出や相続等による変更により、農地台帳(および全国農地ナビ)や不動産登記簿、固定資産税課税台帳等の情報(地目、面積、所有権者、その他権利者、現況等)の形骸化が進んでいる状況を明らかにした。一方、所有権の空洞化現象は、土地情報の状況ばかりが原因ではなく、土地利用者の減少や得られる利益の縮小による土地利用需要の後退もあり、空洞化の解消には利用者を増やすことが喫緊の課題であるとの結論に至った。 上記の認識に基づき、全国農業会議所の調査研究依頼を受けて、2018年1月に長崎県松浦市において、農地の利用集積の実態調査を行った。同市では、農業委員会が中心となって企業参入や集落営農法人の設立等を積極的に推進し、地域の農地利用が維持されていた。空洞化防止に成功した好事例ということができる。調査研究の成果として、緒方賢一「地域の農地の維持、利用調整に向けた総合的取り組み-長崎県松浦市-」(『農政調査時報』579号 全国農業会議所 2018年3月29日)を公表した。なお、同市農業委員会の取り組みは、全国農業会議所・全国農業新聞主催の「第10回耕作放棄地発生防止・解消活動表彰」において農林水産大臣賞に受賞している(全国農業新聞2018年4月27日付)。
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