研究課題/領域番号 |
26380010
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西 英昭 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (50323621)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 法制史 / 中国法 |
研究実績の概要 |
『国民政府司法公報』『大理院民事判例輯存』『民国時期江蘇高等法院(審判庁)裁判文書実録』といった最低限必要となる基本資料を購入し、戦前期日本における治外法権撤廃運動関連の史料(古書)を入手可能な範囲で購入して研究基盤の強化を図るとともに、東京へ出張してアジア歴史資料センター等でも未だ電子データ化されていない部分の治外法権撤廃運動関係の外交史料をデジタルカメラで撮影しデータを整理した。また台湾へ出張して中央研究院近代史研究所に保存される中華民国側の外交史料のうち治外法権運動に対応する部分を収集した。これらを手元に一元的に集約することで、マルチアーカイブ的分析の基盤を整備した。近代中国法関連の欧語書籍については継続して情報を収集・蓄積中である。期間中に公表できたものとしては、中華民国初期の司法状況を描いた何東「民国元年南京における江寧地方審判庁の再建過程――民国期司法の序幕」(『法政研究』第81巻第3号、2014年)を翻訳し、さらには旧来殆ど注目されてこなかったオランダにおける中国法学の歴史につき「オランダにおける「中国」法学の展開過程の一段面――M. H. van der Valkの業績を中心にして」(『法政研究』第81巻第4号、2015年)を発表し、近現代中国における主要な中国法研究者の一人であるvan der Valkの業績を広く紹介することができた。これに関連し、引き続いてEscarraやPadouxなどフランス人顧問に関する研究ノートを作成しており、近日中に公表できるものと思われる。当時の日本人学者に関する情報については幾人かについて同研究ノートに含めておいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の推進状況については概ね良好と思われる。基本史料については今回の科研で当初予定していたもの全てについて購入し終えることができた。一次資料については外交史料館所蔵分について予定通りに撮影を終えることができたが、海外における一次資料については台湾における所蔵分について閲覧・分析の環境が先に整ったのでそちらを優先して出張し、当初予定の欧州分については私費での出張により補った。初年度は史料整理に必要な知識・技能を有する学生アルバイトが学位論文執筆中等の条件により確保できなかったため、個人で細々と整理することを余儀なくされ、個人で利用するには何とかなったが、対外的に広く利用の便を図るには作業が足りない面もあった。ただこれについては来年度以降人材を確保できる見込みであるため、十分にリカバリーが可能であると思われる。成果公表へ向けての論文執筆については年度中に翻訳・論考それぞれ1本を発表でき、またさらにその次の論考を執筆、投稿するところまでこぎつけるなど、当初の予定を上回るペースでの発信を行うことができた。以上、資料収集については当初の予定の順番は多少前後しているものの順調に収集ができており、その整理については多少遅れて入るものの次年度以降のリカバリーが可能であること、また対外的な発信については予想を上回るペースであることを総合するならば、研究全体としては概ね良好と評価することができるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、当初の予定通り引き続いて治外法権回復運動と諸国における近代中国法学の展開過程の解明という課題に本格的に取り組むと同時に、様々な研究条件から作業の順番が前後した課題、特に日本国内における中国法学史の展開過程について、補充的な調査を行っていくこととしたい。また次年度は専門知識・技能を持った大学院生のアルバイトが確保できる見込みであることから、当初予定していた史料の整理及びデータベース作成について、順次作業を進めてゆくこととしたい。論文執筆を通しての対外発信については、欧米の法律顧問に関する情報ないし欧米での近代中国法翻訳過程に関する研究ノートを投稿するところまで進めたので、これを受けて治外法権撤回運動本体の動向に関する論考の執筆を開始するとともに、上掲の日本国内の中国法学史に関する情報も整理したうえで発信することとしたい。史料の閲覧・収集等に関しては、所蔵機関や相手国研究者との兼ね合いから多少タイミングが前後したりすることもあるが、これについては前年度同様に用意が整ったところから柔軟に対応して行き、最終的に完成へと導く形にしていきたい。研究過程で予想しなかった好史料については、積極的に購入を図っていくこととしたい。部分的にはさらに次年度の課題についてもこれを見据えながら、今年度で処理可能なものは前倒し、今しばらく準備が必要なものについてはこれを延期しつつ、全体の進捗状況を常に考慮しながら研究を進めてゆくこととする。
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