研究課題/領域番号 |
26380011
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (20374176)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 基礎法学 / ホームレス / 社会的排除 / 貧困 / 市民団体 / 住環境 |
研究実績の概要 |
本研究は(1)ホームレスや低所得者層が貧困地区に集住し、地域の居住環境が劣悪化している状況を分析するとともに、(2)そうした貧困地区の改善に向けて、市民団体の活動を促進し、寄付税制を改革し、住宅政策を改善するための方途を模索することを目的とする。 本年度においては、前年度に引き続き、都内のホームレス支援団体の活動に参加し、ホームレスや支援団体が行政とどのような紛争を起こしているか、自治体がどのようにホームレスを排除しているかを、参与観察により分析した。本年度は東京都渋谷区における宮下公園の整備、それに伴う公園の供用停止やホームレスの排除を中心に分析した。同時に、渋谷区内に居住するホームレスや生活保護受給者からヒアリングを実施し、かれらの生活状況や住民票の有無、選挙権行使の可否などを調査した。さらに、米国におけるホームレスの選挙権行使について、判例や資料の分析を行った。 調査の結果、日本においては、住民票と選挙人名簿とが連動しているため、住所を持たず住民票を調製され得ないホームレスの選挙権行使が不可能になっている実態を確認した。また、とりわけ東京都渋谷区においては、同区が公園の夜間施錠や再整備を極めて恣意的に実施するために、ホームレスが容易に排除されている状況を観察できた。他方、米国においては、各州が有権者ID法を制定し、低所得者層の選挙権行使を阻害している状況を確認した。 これらの考察の結果は、Law and Society Associationの2016年年次総会やAsian Law & Society Associationの2016年年次総会で報告するとともに、糠塚康江(編著)『代議制民主主義を再考する―選挙をめぐる三つの問い』(ナカニシヤ出版、2017年3月)所収の拙論(「ホームレスと選挙権―土地から切り離された個人の同定について」)としても公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、上記のとおり、都内のホームレス支援団体の活動に参加し、ホームレスや支援団体が市区町村とどのような紛争を起こしているかを参与観察により分析できており、かつ、詳細な面接調査を開始しているからである(調査案は勤務先大学の学内の研究倫理審査もクリアしている)。 第2に、日米におけるホームレスに関する判例や、様々な社会的装置を利用したホームレス排除の状況について、2つの国際学会における報告として世界に発信するとともに、1冊の共著への分担執筆の形で公表できているからである。そこでは日米におけるホームレスの選挙権行使の障害や、日本における社会的装置(アーキテクチュア)を用いたホームレス排除の実態を明らかにしている。 ただし、日本のホームレスに対する詳細な面接調査については、なお十分な数が揃っていない。また、貧困地区への集住の状況を、客観的な地理的データ等を用いて明らかにするまでには至っていない。「おおむね順調」としたのは、これらの点を考慮したためである。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、日本のホームレスの実態調査を、面接調査の形で引き続き実施することにしたい。面接調査票が学内の研究倫理審査をクリアしていること、面接継続の準備が整っていることから、今後の成果が見込まれるものと考える。 第2に、神奈川県横浜市を対象として、住民の所得・収入や教育水準、平均寿命等と居住区域の地価との相関関係を、土地の取引価格データを用いたヘドニック分析により明らかにしたいと考える。既に昨年度に民間のデータベース作成会社に横浜市のデータの整理分析を業務委託しており(納品済)、土地取引価格データも近日中に入手できる見込みである。この分析は、貧困地区とそれ以外の地域への集住を、客観的な地理的データを用いて明らかにする作業の一環となるものである。なお、分析にあたっては、経済学者(清水千弘・日本大学教授)、都市工学研究者(谷下雅義・中央大学教授)の協力を仰ぐ予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、神奈川県横浜市を対象として、住民の所得・収入や教育水準、平均寿命等と居住区域の地価との相関関係を、土地の取引価格データを用いたヘドニック分析により明らかにしたいと考え、民間のデータベース作成会社に横浜市のデータの整理分析を業務委託した。しかし、これが納品されたのが年度末近くであり、さらに土地取引価格データをも入手し、貧困地区とそれ以外の地域への集住を、客観的な地理的データを用いて明らかにする必要があったため、次年度使用額が生じてしまった。この点については、補助事業期間延長承認申請を行い、既に認められたところである。 次年度は、上記の分析を推進するとともに、残額を執行して研究を完成させる所存である。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は160円のみであるため、文房具等の消耗品に費消したい。
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