研究課題/領域番号 |
26380012
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子力 / 損害賠償 / 不法行為 / 福島事故 / 財産権制限 / 立法過程 / 我妻栄 |
研究実績の概要 |
本研究は,我妻栄文書,加藤一郎文書,原子力委員会資料等の原子力損害賠償制度関連の一次資料の発掘,整理,検討,分析による立法史の実証的解明である。 平成28年度の研究実績は,以下のとおりであり,立法史の解明に基づいた学界,社会への情報発信及び研究の一層の進展を中心とする。①「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法,1961年)の立案経緯と制度見直しの論点」獨協法学99号(2016年)は,平成27年度(前年度)の研究実績である『原子力損害賠償制度の成立と展開』(日本評論社,292頁)について,新たな資料を補完しつつ,読みやすい形にまとめ直したものである。②「福島原発事故での多数店舗経営企業の営業損害賠償:賠償終期と損益相殺(札幌地判平成28年3月18日)」は,具体の原子力損害賠償の実際のあり方についての判例評釈であり,営業損害賠償の終期を一と見るべきか,損益相殺を考慮に入れるべきか等を検討した。③米国ルイジアナ州ニューオーリンズで開催されたLaw and Society Associationにおいて,成果を発表した。④フランスレユニオン大学クネッチュ教授が,来日中であったところ,同教授のセミナーに参加し,本科研費により,東京大学森田宏樹教授らととともに,共同研究会を東京で実施した。クネッチュ教授の論文が,事業者有限責任主義のフランスの問題を指摘し,事業者無限責任制度への転換を提唱したものであることから,日本での早期刊行を勧めたところ,法律時報に掲載された(法律時報88巻10号(2016年)58頁には小柳への謝辞がある)。⑤研究成果の発信を目指して,「原子力損害賠償法ブログhttp://genbai-blog.seesaa.net/」を継続し,また,twitterも随時展開した(@Shunkoyanagi1)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に推移していると評価した理由は,次のとおりである。原子力損害賠償制度の立法史については,一次資料の発掘,分析が予想以上に順調に進捗したことを踏まえて,前年度の2015年に『原子力損害賠償法の成立と展開』を日本評論社から刊行した,原子力産業史の権威である橘川武郎教授(日本経営史学会会長)から,「制度再検討の大前提と成る数々の事実を明らかにした本書を読むことなくして,再検討自体が初められないことだけは間違いない」との評価を得たが(雑誌エコノミスト2015年11月14日号),本年度は,この研究成果の一層の発信を行った。その代表が,①であり,これは,日本エネルギー法研究所での講演をもとに,パワーポイントスライド等を使って,原子力損害賠償法制度の,また,拙著は,現在進行中の制度見直し論でも間接的には引用されている。例えば,2015年設置の原子力損害賠償制度専門部会でも,「原賠法制定時に賠償責任を一定額で打ち切ることは財産権保護の観点から憲法上疑義があるということで,法制局で反対され,結局責任限度額は法律上,書くことができなかった訳です.……内閣提出の法案でいこうとする限りは,この議論をクリアしないといけないというのが最大の論点だと思います」との指摘があるが(2016年1月20日議事録39頁清水潔元文部科学事務次官発言),法制局による事業者有限責任違憲論は,拙著の発見であり,この清水発言をとおして,同専門部会の議論にも一定の影響を与えたと考えられる。 もっとも,課題が残った面もある。原子力委員会と密接に関連する科学技術庁の成立史を検討しようとして2016年8月に提出した閲覧願いを申請した国立公文書館所蔵文書について,審査等が1年かかるとされ,いまだ見ることができない。このため,この方面についての検討は一時的に中断せざるを得なくなっている。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、原子力損害賠償制度については,2015年刊行の『原子力損害賠償制度の成立と展開』を補足する形で,論文を準備中である。なかでも,原子力事業者以外のサプライヤーや建設業者を免責するいわゆる責任集中原則について,昭和34年7月案をはじめとした諸草案や議論を分かりやすい形でまとめる論文を執筆中である。実務家等は,東電のような発電事業者だけでなく,建設業者等に損害賠償を求めたいという意向があり,責任集中原則の発端,理由等について説明を求められたことが複数回あった。 第2に、クネッチュ教授との協力をきっかけに,フランスの原子力賠償制度をより深く検討する必要を感じている。フランスは,事業者の賠償責任限度額等が非常に低く抑えられており(被害者の得られる賠償は,約430億円程度で打ち切り),事業者保護に相当に傾いた放棄である。これに対して,クネッチュ教授は,事業者無限責任への転換を提唱している。その議論を詳細に検討することは,原子力委員会で準備中の原賠法見直しについて,広い観点から意見を提出できるものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年3月に海外出張による資料調査を予定していたが、家庭事情により、この出張を断念せざるを得なかった。また、我妻文書の複写に予想外に時間がかかり、請求書が2016年3月に提出されたため、2016年度の出費とできなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年の夏休みに予定した出張を後ろ倒しで行う。我妻文書複写分は、2017年に支出する。
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