本研究は,「原子力損害の賠償に関する法律」の成立過程について一次資料による解明を目的としていた。本研究により,我妻榮文書,原子力委員会資料等の一次資料を発掘・分析することが可能になった。 本年の研究実績としては,第一に,方法的なものがある。研究代表者は,「原子力損害賠償制度の歴史と見直しの論点:事業者無限責任制度は,「いかにして」成立したか?見直すべきか?――」環境と公害2017年春号論文において,「『なぜ』事業者無限責任かの問いに学問的に答えるには,『いかにして』事業者無限責任が成立したかを含め原賠法案立案過程を一次資料に基づき包括的に解明する必要がある。」ことを指摘した。従来の研究が,いかにしての解明なく,「なぜ」という論点について論じ,根拠のない発言が数多くなされてきたことを批判するものである。原子力問題については,多くの意見が存在するが,学問的な作業を経たものは多くない。この点については,第447回近畿部会(2017年5月20日)立命館大学にて,小栁春一郎氏(獨協大学)「昭和30年代における法案の立案過程―原子力損害賠償法を素材として」としても発表した。なお,関連して原賠法に関する判例評釈も発表した。 本年の研究は,第二に,原子力損害賠償制度についての新たな基礎資料の発掘も行った。それは,我妻榮とともに,原賠法成立に関与した星野英一関連文書における原子力賠償関連資料である。星野資料の存在は,大村敦志「法学部五年制問題と星野英一 」法学協会雑誌133巻10号(2016年)で認識していたが,2018年1月末に東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法制史料センターの整理が進捗し,利用可能になったため,その複写を行った。もっとも,研究末期の資料入手であり,資料分析に手間取り,科研費の研究期限までの論文化作業ができなかった。この点は,今後継続して分析していきたい。
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