研究課題/領域番号 |
26380016
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
瀧川 裕英 立教大学, 法学部, 教授 (50251434)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 政治的責務 / 遵法義務 / 法的状態 / 自然状態 / グローバルな正義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、法に従う義務である遵法義務を、自然状態と対比される法的状態を構築する義務として位置づけた上で、法的状態の根本的な契機を理論的に解明し、法的状態を構築する義務の正当化根拠を探求することにある。この目的を達成するため、平成26年度には、1 政治的責務正当化論における利益論を遵法義務正当化論の自由論へと転換するための共和主義の自由の検討と、2 政治的責務正当化論の存在論的転回、3 法的状態構築義務としての自然義務の具体的含意の考察を行った。 1 カントの法的状態論の基礎である自由は、消極的自由でも積極的自由でもない第三の自由として理解できるが、この第三の自由たる共和主義の自由を分析した。その結果、共和主義の自由が、奴隷をこそ不正義の典型例として捉える自由論であり、他者に対して正当化する義務を根底に置く議論であることを示した。 2 政治的責務を正当化するために自然状態と国家状態を対比する議論を、ゲーム理論を用いて分析した。その結果、自然状態が戦争状態となり国家が要請されるのは、人間の可死性にあること、可死性を克服するためには宗教を初めとする多様な方策がありうるが、いずれの方策も不完全であるため、決定を強制する国家が要請されることを示した。 3 法的状態を構築する義務を肯定することが、現実的な課題に対していかなる含意を持ちうるかについて、エボラ出血熱とそれに対する国際社会の援助や知的財産権制度のあり方を例にとって考察を加えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、2つの研究作業を行い、成果報告を行うことを予定していた。 研究作業予定の第一に、政治的責務正当化論における利益論を遵法義務正当化論の自由論へと転換することである。これについては、<法的状態は自然状態に比べて望ましい状態であり、その理由は法的状態が共和主義の自由を保障することにある>という理論仮説を検討すべく、共和主義の自由について研究を進め、論文を執筆した。 研究作業予定の第二は、政治的責務の存在論的転回を遂行することである。これについては、自然状態がゲーム理論でいう囚人のディレンマ・チキン・シカ狩り・調整ゲーム・男女の争いのいずれであろうと、国家なしで協力関係が解決されうるのであるが、<人間が死すべき存在である>という事実こそが、自然状態を戦争状態にする根源的な要因であることを示すべく、論文を執筆した。 以上のように、研究計画における予定を順調に達成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は研究計画に従って、順調に研究を推進することが可能であった。そのため、今後についても、研究計画に従って研究を推進していくことにする。具体的には以下の通りである。 第一に、平成26年度に行った政治的責務に関する研究を洗練させ、英語論文化して国際学会において報告する。平成27年7月には、ワシントンDC(米国)において、法哲学・社会哲学国際学会連合の世界大会が開催され、そこで政治的責務と政治的正統性に関するスペシャル・ワークショップを企画・開催することが決定しており、国内外の研究者と有機的な連携を取りながら、その時点までに得られた本研究の成果を報告し、そこでの批判的討議を通じて、研究を進展させていく。 第二に、法的状態における匡正的正義の位置づけを検討する。法的状態に関して最も影響力のある考察を行ったカントによれば、法的状態とは「配分的正義の下にある社会」である。これに対して、本研究は関連文献を精査しながら、法的状態の特質を配分的正義ではなく匡正的正義に見いだすことを試みる。そのことで、法秩序の根底にある正義とは何かという根源的な問いにアプローチしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
洋書の到着が遅れて会計処理が間に合わず、9,407円の次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度分の助成金と併せて、堅実に使用していく。
|