研究課題/領域番号 |
26380017
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
溜箭 将之 立教大学, 法学部, 教授 (70323623)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 民事訴訟法 / アメリカ / イギリス / 国際的紛争 / 信託 / エクイティ / 裁量権 / 代替的紛争解決手続 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、6年越しの英米民事訴訟手続の比較研究をついに書籍として公刊することができた。溜箭将之『英米民事訴訟法』(東京大学出版会2016年4月)。イギリスとアメリカの民事訴訟に関わる立法・規則・判例を検討し、これらを比較するとともに英米間での摩擦や対立も含めた国際的な相互関係を交えて分析することによって、英米の民事訴訟の国際面を含めたダイナミズム、変化・変革の動因を捉えるとともに、イングランドの伝統を共有しつつ、それぞれの社会的・経済的・政治的背景の中で対照的な展開を遂げていることを示すことができたと考えている。これによって、英米の民事訴訟法の国際的ダイナミズムについての研究は、一つの区切りとしたい。 平成27年度に研究が進展したのは、信託を巡る紛争解決、それも国際的な側面と歴史的次元についてである。平成27年9月には、ケンブリッジ大学のニール・ジョーンズ博士を招聘し、信託法の発展と訴訟の関係について、歴史的側面を中心に講義・研究会で話をしてもらうことができた。講義「イングランドにおける17世紀までのユースと信託の発展」(2015年9月12日、於立教大学);研究会「信託の裁判例からみた16世紀イングランド:宗教・既婚女性・子・金銭」(9月12日、於東京大学向ヶ岡ファカルティハウス);研究会「16世紀の信託裁判例のマニュスクリプトを読む(9月16日於京都大学) 信託という特定された分野ではあるが、エクイティ上の裁量権の行使、とりわけ近年の国際的紛争の展開の観点からは、手続法の発展と密接に関係した法分野である。本科研費の当初の研究計画では予期していなかった重要な展開であり、今後もこの分野での研究を深めてゆきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究実施計画では、仲裁法及び仲裁実務の比較研究を進める予定であった。残念ながら、この方面では、現時点で公表できるだけの成果を積むことはできていない。 こうした遅れの大きな理由は、当初の計画では予期していない方面での研究の進展があったことである。信託と紛争処理、信託法理の国際的な伝播と国際的な紛争処理手法の発展といった、より特定された分野で、しかしその分比較法的な広がりのある研究が進展した。 現時点では、信託と紛争処理に関する研究の方が、仲裁法の比較研究よりも独自性があり、また国際的なアピールの強い研究が進められるという感触がある。仲裁法の研究は当初よりも進行を遅らせざるを得ないが、信託と紛争処理の研究を進めていくことにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度9月より、1年間の海外研究に出ることができ、ハーバード大学のイェンチン研究所の客員研究員として研究を行うこととなった。本科研費に加えて国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)を受給できる見通しになったため、充実した研究環境を整えることができると考えている。 ハーバード・イェンチェン研究所は、アジア研究に関する世界的な拠点であり、本研究の英米訴訟法の国際的な広がりについての研究を、より広い視野から捉える研究ができると考えている。 上記の通り、現時点での研究は、信託と紛争処理の分野で進展をしているため、こちらを重点として本科研費の研究も進めていく予定である。イギリスのエクイティに由来する信託法理は、17世紀以降のイギリスの海外進出とともに世界各地に広がり、一方ではアメリカ大陸を経ての西廻りルート、他方では喜望峰を回ってインドを通じての東廻りルートによって伝播した。この二つのルートは、20世紀初頭の日本において合流し、1922年信託法に結実し、20世紀末から21世紀末には、中国において混合する形で信託法制定に至っている。こうした英米法の国際的な広まり、その社会経済的背景や国内・国際政治の影響を含めた分析は、わが国においても独自性をもつと自負しており、また海外の研究者とのやり取りにおいても手ごたえを感じさせるものである。 在米研究中は、本研究課題を中心としつつも、ハーバード・イェンチェンと国際共同研究加速基金を活用して、積極的な国際交流を行い、国際的なカンファレンスで成果報告をするとともに、長期的に可能であればカンファレンスを主催するところまで持ってゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献の購入にかかる費用を、想定よりも若干ではあるが小さく済ませることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、海外研究を行うため、使用額は大きくなると予想されるため、元の計画通りの研究費の使用を行うことができると考えている。
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