本年度は、本研究の最終年度であり、一定の質的調査の補充を国内外で実施した。それらを含め、本年度はこれまでの質的調査等のデータの検討、整理、その公表に主に従事した。収集した、医療事故当事者を中心とするインタビューデータおよび対照群としての一般人のデータを次の様な枠組みで分析してきた。1)一般に「被害」「責任」「要求」の語りがいかにカテゴライズされているかを検証し、社会で共有された支配的ナラティブの構造を検討した。一定の共有制はある者の、それらが階層やジェンダーなどいくつかの要因に即して変移する子とも明らかとなった。2)次に実際に被害に直面した当事者が、子の一般的支配的言説概念を超えて、それら観念をいかに再構築していくか、そこにまた、法や判決を含む共有された支配的的言説の物語が作用しているかを検討した。3)さらに法や判決の言説が、逆にそうした一般的な支配言説と、ここの当事者の個別的語りの構成をいかに取り込み、変容し、また抑圧するかについて、判決の文言などを素材に検討した。これらを検討を通して、法と社会内で共有された言説の相互循環過程と、その過程の行方に関して、ひとつの、時には大きな変動要因として、時には一般的意味構築解消されてしまう,個人的経験の語りの関係を見極めていくことができた。 現在、これらを理論的に整理し、本格的な著作として準備中であるが、その中間成果については、学会での発表、論文における喜寿絵の影響という形で、公表してきている。
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