1.2015年秋にポーランドで成立した新政権のもとで、「民主的法治国家」の原則(具体的には権力分立と裁判所の独立の原則)を揺るがす「憲法危機」が発生した。2016年度には、憲法法廷を焦点とするこの危機がいっそう深化するともに、通常裁判所にも波及するに至った。これをめぐる欧州連合との関係も、引き続き緊張している。以上のような現在進行形の事態の追跡・分析を引き続き行なった。とりわけ、憲法法廷の正統性が揺らぐ中で、通常裁判所による違憲審査(抽象的審査制というモデルの内部における付随的審査)の可能性という興味深い問題が議論されていることに注目した。 2.2016年8月に、ワルシャワに出張し、①元憲法法廷裁判官のE.ウェントフスカ教授、およびM.ヴィジコフスキ教授からの聴き取り(とりわけ、現今の「憲法危機」について)、②ポーランド科学アカデミー法学研究所図書室における資料蒐集を行なった。また、2017年3月には、ワルシャワおよびヴロツワフに出張し、①E.ウェントフスカ教授および現職の憲法法廷裁判官であるS.ヴロンコフスカ-ヤシキェヴィチ教授からの聴き取り、政治学者R.アルベルスキ教授との意見交換、②大統領の申立てにもとづいて行なわれた集会法についての憲法法廷の口頭弁論の傍聴、③再改正された刑事訴訟法にもとづいて行なわれたワルシャワ管区裁判所における刑事裁判の傍聴、④ポーランド科学アカデミー法学研究所図書室における資料蒐集を行なった。 3.ロシア・東欧学会の研究大会(2016年10月、京都女子大学)において、「ポーランド新政権とヨーロッパ」と題する報告を行ない、違憲審査制をめぐる動向にも言及した。 4.連携研究者・佐藤史人は、モスクワおよびブダペストに出張し、憲法学者等からの聴き取りおよび資料蒐集を行なった。
|